「助けて」インプレゾンビの正体は異国の少女。国境を超えた壮大なヒューマンドラマにときめきが止まらない!【書評】
公開日:2025/7/3

「インプレゾンビ」バズった投稿の引用やリプライ欄に溢れる、インプレッション狙いのアカウントのことだ。その支離滅裂な文言や理解が難しい外国語に、苛立ちを覚える人も多いだろう。
『インプレゾンビの初恋』(きたしま/KADOKAWA)は、絵師とインプレゾンビの運命的な出会いを描いた物語だ。
主人公のぽん太は、日本の売れないイラストレーター。ある日、自身が投稿したイラストが初めてバズるが、リアクションの大半を占めていたのは海外のインプレゾンビだった。
ぽん太は怒りに任せてブロックやミュートを繰り返すが、あるアカウントに目が留まり、試しに翻訳してみることに。
そこにはイラストへの熱い想いと「助けて」の文字が…。インプレゾンビの正体が気になるぽん太は、異国の地へと旅立つ。
インプレゾンビの正体…それは、ぽん太の絵に恋する異国の少女・シーシャだった。彼女が暮らす環境は過酷で、自由など皆無。政略結婚を強いられそうになり、だいすきな絵を描くことすら禁じられる日々。そんな毎日の中でぽん太の絵だけが彼女にとっての救いだったと明かされ、なんとも胸が苦しくなる。
しかし、ぽん太はインプレゾンビの素性を知らず、シーシャはぽん太が自分の元へ向かっていることを知らない。はたして彼らは無事に出会うことができるのか? たった一言のリプライから始まった壮大な物語に、心をグッと掴まれるだろう。
本作は、匿名性が高く相手の顔がわからないSNS時代だからこそ成立した物語だ。画面上で交わされる何気ないやりとりの裏に、意外な人物がいたり、想像もできない背景や意外な感情があったりするのかもしれない。読み終えると、思わずそんな想像を掻き立てられてしまう。
共感や驚き、笑いやときめきなど、さまざまな感情がとめどなく押し寄せるストーリーを、ぜひ楽しんでいただきたい。
文=ネゴト / fumi