“プロレス界の帝王”がリングを降りた日から8年――試合で重傷、リハビリの日々を過ごす髙山善廣を〈物語〉に刻む『NO FEAR』誕生秘話《著者インタビュー》
公開日:2025/7/4
夢を叶えるモデルケースとしての髙山善廣

――大学時代のお知り合いである、今田さんと金子さんの証言もすごくよかったです。髙山さんは昔から強かったわけではなくて、弱かったり、人間臭かったりするところからのスタートだったんだなと。
鈴木:喘息持ちという大変な子ども時代があって、第1次UWFに合格したけど1、2週間で辞めてしまうという挫折を経験して、どれだけ自分が弱い人間かというのを嫌というほど味わってきた人だと思うんですよ。弱い自分を知っているからこそ、強くなりたいと思ったんでしょう。実際にそれを積み重ねていけば強くなれたという事例ですよね。
レスリングで日本一になったとか、柔道で世界一になったとか、そういう実績はなにひとつないわけですよ。高校時代はラグビー部で、大学時代はアメフト部と言っても、全然、畑の違うスポーツですから。普通のスポーツマンがプロレスの道場に入ったことによって、普通じゃない人間にだんだん変貌していくんですよね。髙山さんは「俺のバックボーンはプロレス」と言うんです。
――バックボーンはプロレス! カッコいいですね。
鈴木:これは見る側に夢を与えますよ。「自分も頑張れば強くなれるんだ」と思える。弱さを強さに変えるツールとして、プロレスに出会えたのもよかったですよね。プロレスラーになる前、サンケイグループに入社して営業をやったけれども、営業成績が全然上がらなかった。あのまま会社にいたら、うだつの上がらないサラリーマンのまま終わっていたかもしれない。そんな人が“プロレス界の帝王”と呼ばれるまでになった。これ、もっと世の中に届いてほしいなと思います。
――やりたいことがある人にとっては、夢のある話です。
鈴木:全員が成功するわけではないけれど、続けなければ成し得ない。こんなにも劇的な形で成し得た人間がここにいるわけです。これはプロレスというジャンルを超えて、自分の夢を実現したい人のモデルケースとして、もっと知られてほしいですよね。背は高かったけれど、本当に何者でもなかったですから。アントニオ猪木さんのようにブラジルに移住したとか、ジャイアント馬場さんのようにプロ野球出身とか、もともとのフックがなにもない人間が、ここまで来られたわけです。
――そういう物語として読むと、ものすごく勇気と希望をもらえる本です。プロレスファンに限らず、多くの人に読んでほしいと心から思います。
鈴木:ありがとうございます。そうなんです、プロレスを知らない方ほど読んでほしいんです。書いている内容によっては、プロレスに詳しくなければわからないこともあるでしょう。でも、髙山善廣という人間に興味を持てばそこからいくらでもさかのぼることはできるし、それによって何かが得られる。共感かもしれないし、知識かもしれないし、あるいは生きる上でのパワーかもしれない。そして得られるものがあったら、そのポジティブな思いを募金という形で髙山さんに“お返し”してもらえるとありがたい。一人でも多くの方が、髙山善廣という人間とつながることができれば、それこそがこの本を書いた本望です。
取材・文=尾崎ムギ子 撮影=島本絵梨佳(一部、著者提供)