格安のボロ家は絶品まかない飯付き!あたたかいごはんがつなぐ共同生活【書評】
公開日:2025/7/27

大人になりひとり暮らしを始めると、誰かの手料理を口にする機会は自然と減っていく。外食や惣菜は手軽で便利。でも、誰かが自分のことを思って作ってくれた料理にしかないあたたかさがある。
『猫目荘のまかないごはん』(夏見こま:漫画、伽古屋圭市:原作/KADOKAWA)は、手料理を通じた人と人とのつながりをやさしいタッチで描く、心温まるグルメ漫画だ。
主人公は、すべてを親に決められてきた人生を変えたいという思いを胸に上京した女性・降矢伊緒。友人に見た目はボロいけれど味がある下宿屋「猫目荘」を住まいとして紹介される。格安の家賃、そして大家が作る絶品まかない付きという、伊緒にとっては、まさに理想的な暮らしの場だった。
しかし、赤の他人との距離が近いゆえにどことなく緊張する共同生活。初めは戸惑っていた伊緒だったが、仕事で疲れた身体にじんわり沁みるまかない飯の美味しさ、そしてまるで家族のように接してくれる住人たちとの穏やかな日々に、徐々に心がほぐれていく。そんな中、伊緒にとある転機が訪れて――。
本作の見どころは、自身の現状に対し漠然とした不安を抱える主人公が、多様な価値観に触れることであらためて自分なりの人生を模索していく姿にある。親元を離れても劇的な変化はなく、やりたいことも見つからない平坦な日々。そんな中、猫目荘で出会った住人たちは、俳優やYouTuber、カフェ経営など好きな道を自由に選び、のびのびと生きていた。また、手料理を通じて人と人がつながる場をつくりあげた大家の存在も、くすぶっていた伊緒にとって大きな刺激となった。
多くの場合、人生は人との関わりによって動き出すものだ。さまざまな形で他者と関わりながら成長していく主人公の姿は、自分自身の価値観にもとづいて意思決定を行う大切さを教えてくれる。グルメ漫画好きはもちろん、人生に迷う人や自分の道を探している人にも、きっと響く一冊だ。