地獄の結婚生活に終止符を。借金のカタに政略結婚を強いられたヒロインが自由を取り戻すまでの奮闘記【書評】

マンガ

公開日:2025/7/25

 意にそぐわぬ縁組みというのは不幸なものだ。形だけの夫婦関係や一方的な支配は当事者の心をすり減らし、自由や尊厳を奪っていく。そんな地獄のような結婚生活から抜け出すには、誰かの助けを待つだけでなく、自分の力で立ち上がる覚悟が必要だ。

白い結婚から三年。旦那様、私と離縁してください』(椿蛍:原作、雪村理子:漫画/秋田書店)は、愛のない結婚に苦しむヒロインが自らの力で人生を切り開こうとする、力強い物語だ。

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 本作のヒロインは、借金のカタとして16歳で政略結婚を強いられた少女・リーゼ。名門ヴァレリー伯爵家に嫁いだ彼女を待っていたのは、優雅な貴族生活とは真逆の、まさしく地獄のような生活だった。夫・フレデリックは愛人にうつつを抜かし、リーゼを召使い同然に扱う始末。愛人の言いなりになって散財を繰り返す夫のせいで家計は火の車。使用人は去り、屋敷は見る影もないほど荒れ果てていく――。

 けれど、リーゼはそんな状況でただ泣いて耐えるだけの女性ではない。注目すべきは、円満離婚を目指して着々と準備を進める彼女の逞しさだ。冷遇にもめげず、静かに反撃の機会をうかがっていたリーゼは、若き宰相・アルウィンとの出会いをきっかけに離縁に向けた本格的な行動を開始。不貞の証拠集めや資金作りなど、困難な課題の一つひとつに真正面から立ち向かう彼女の芯の強さには思わず感服させられる。

 夫を憎むわけではなく、あくまで自立のために一歩ずつ前進していくリーゼの在り方は、すでに世間知らずのご令嬢のそれではなく、知性と気丈さを兼ね備えた大人の女性そのものだ。甘えたり媚びたりすることなく、知力と行動で現状を変えていく彼女の勇姿に励まされる読者も多いだろう。理不尽な状況をはねのけ、自分の人生を自分の手で切り開きたいと願う人に、そっと背中を押してくれる一冊だ。

文=ネゴト / 糸野旬

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