26歳、無職から一転して大学生に。キャンパスで見つけた“大人の青春”とモラトリアム【書評】

マンガ

公開日:2025/7/25

 気がつけば、なんとなく年齢を重ねていた。自分のやりたいことも、自分自身のこともわからない。そんな思いを抱えている大人は少なくないだろう。『青は難く春は易し』(榎木りか/KADOKAWA)は、そんな大人の心に、そっと寄り添ってくれる一冊だ。ときめきだけでは語れない、夢と現実の狭間に立つような、大人の恋愛が描かれている。

 主人公は26歳、社会人歴8年のきりこ。高校卒業後、なんとなく始めたカフェのバイトが長引き、気づけば店長に。実家のある地方で坦々とした毎日を送っていたが、ある日突然職を失い、自分を見つめ直すため、東京の大学に入学する。そんな彼女が東京で出会ったのは、他大学から転学してきた20歳の男子学生・深。どこかミステリアスで距離感が近すぎる彼と接するうちに、きりこはだんだんと大学にも馴染み、自分と向き合っていく。

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 東京育ちで、ラブホテルでのバイトをしている深は、きりことは正反対のタイプ。容姿も育ちも洗練されて見える一方で、その内面にはどこか影を抱えている。自分に関心が持てないと冷たい目で語る謎めいた部分が、読者の物語への没入感を深める。彼の心が、きりことの関わりを通して少しずつ動いていく過程も見逃せない。

 26歳のきりこが経験する大学生活は、地に足がついており、落ち着きと現実感がある。若者との年齢の差を感じたり、溢れる希望や可能性に少し落ち込んだりもする。だが彼女は社会人経験があるからこそ、学べる時間の貴重さ・楽しさを知っている。大学という場所が、ただ遊びや恋だけに浮かれる場ではなく、学んで自分を見つける場であることを、身をもって理解しているのだ。大人になってから訪れたモラトリアムを存分に楽しむ彼女の姿に、共感を覚えたり、眩しく感じたりする読者も多いはずだ。

 「好き」だけでは踏み出せなくなる年齢。現実や不安、将来のことが頭をよぎる。けれど、大人になったからこそ、味わえる感情や出会いもあるはずだ。本作は、そんな大人の青春のあり方を、そっと教えてくれる物語である。

文=ネゴト / fumi

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