入社3年目テレビ局員によるエッセイ連載「テレビぺろぺろ」/第3回「ドラえもん、サザエさんを観たことがないテレビマンが、アニメを作ったら」

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公開日:2025/7/6

テレビ東京入社3年目局員・牧島による、連載エッセイ。「新しくて面白いコンテンツ」を生み出すため、大好きなお笑いライブに日参し、企画書作成に奮闘する。これはそんな日常の記録――。

こんにちは。
テレビ東京の牧島俊介です。さて…。

私の抱える、アニメコンプレックス

『サザエさん』を観たことがない。
『ドラえもん』も、『ちびまる子ちゃん』も観たことがない。
私は、誰もが知る国民的人気アニメをことごとく通ってこなかった。
テレビを作る職業なのに、本当に恥ずかしい。

知り合いの放送作家に言われたことがある。
「普通は『サザエさん』とかを基準にして、そこからズラして面白いことを考える。でも牧島は『ゴッドタン』が基準だから、突飛すぎるんだよ」
元々テレビっ子ではなかった私が、初めて夢中になった番組は、中学生の頃、眠れない夜に偶然観た『ゴッドタン』だった。
最初に心をつかまれたのが、激尖り深夜バラエティ。そこが私の基準になってしまったらしい。

この「観てこなかったこと」は、私の最大の趣味である“お笑い鑑賞”においても都合が悪い。漫才の設定が『サザエさん』だったら、もうついていけないのだ。しかもこれが、けっこうな頻出テーマ。他の観客が揃って爆笑する中、なんとなく合わせて笑ってみせる。非常に、寂しい。

だったら、今からでも観ればいいじゃないか。
そう思うと、別のところからこんなことを言われる。
「『サザエさん』も『ドラえもん』も観たことないなんて逆に貴重だから、大事にした方がいいよ。だから変な企画が思いつくんだよ」

本当に「観ていないこと」に価値なんてあるのだろうか。
そう思いつつも、やっぱり観られない。
だからこそ、これは私のテレビ制作者として、人間としての根深いコンプレックスなのである。

よりにもよって、そんな私がアニメ番組を作ることになるなんて。

超ショートアニメ『惑モアゼル』

銀座を舞台に、突如現れる巨大怪獣、巨大ホステス、巨大寿司、ドバイ…そして隕石。

この異常事態に対し、テンション高く騒ぎ倒すのは、“惑モアゼル”と呼ばれる3人のおばちゃん。
驚き、叫びながらも、持ち前のポジティブさで軽快に乗り越えていく。

6月9日より、5夜連続で『惑モアゼル』(『サザンガキュー』枠内で放送)というアニメを放送した。
現在もTVer、YouTube、TikTokなど計8媒体で配信中である。

入社以来、バラエティ制作にしか携わったことがなかった私が、なぜアニメを作ることになったのか。

きっかけは、「IPを育てたい」という社内のニーズだった。
IPとは、インテレクチュアル・プロパティ——知的財産。
つまり、キャラクターや作品の権利のこと。

ある日、ビジネス職の社員から相談を受けた。
オリジナルアニメを作って、キャラクターをIPとして育てたいと。

アニメを作ったことがないからこそ、やってみたい。
またとないチャンスかもしれない。私はそう思った。

ただし、アニメといっても、1話たったの15秒。
地上波放送ではなかなか目に留めてもらいにくいかもしれない。
しかし、TikTokやYouTubeなどでショート動画が人気の昨今、SNSでバズればIPとして成立するのではないか。
地上波以外の媒体を主眼に置いた新たな育成戦略である。

巨ステス発言は緊張する

アニメを作った経験はない。
なんなら、“アニメコンプレックス”まで抱えている。
そんな私が正面からアニメに挑んでも、面白いものになるとは思えない。

だから、もっとイメージしやすい領域に引き寄せることにした。
“15秒のショートコント”として捉えてしまおう。
生々しいコンプレックスとの対峙、からの退避が早々に決まる。

まずは、企画・脚本として、コント制作の実績が豊富な洛田二十日さんとワクサカソウヘイさんにお声がけする。2人は私の尊敬する仕事仲間であり、散歩友だちでもあり、『サザエさん』を観たことがある。

最初の会議で、ワクサカさんが言った。
「実写のコントじゃできない設定にしたい。巨大なもの、出しましょう」
洛田さんも続ける。
「巨大な何かに、おばちゃんたちが惑わされる。“惑モアゼル”が」

どんな“巨大な何か”を出すべきか。
私は、おそるおそる提案してみた。
「……巨ステス、とか」
巨大なホステスのことを指す造語。くだらなすぎて緊張する。小声になる。
なんで面白いのか説明してくれと言われたら困る、ただの思いつきのアイデア。
2人はすぐに笑ってくれた。ほっと胸を撫で下ろす。

早かった。1時間もしないうちに、世界観が決まっていく。
洛田さんが言う。
「街に怪獣が出るんですけど、それを“日陰”だと解釈するんですよね、“惑モアゼル”は」
ワクサカさんが言う。
「この街、“銀座”という設定にして……その後ろから“ドバイ”が生えてくるのはどうですか」

邪気なく脳内を楽しませてくれる。
そんな案が次々に飛び出す中、じゃあこれを誰に描いてもらうか? という壁にぶつかる。
アニメーター探しである。
初めてのアニメ制作だから、当然ながらつながりはない。
YouTubeで100人以上ものアニメーターの動画を地道に見て回る。
そこで見つけたのが、一寸先はおじさん。
エッジの効いた3D画風。コント性を際立たせる仰々しさがあった。
しかも、至極上品なタッチで作品性もしっかり担保される。
『惑モアゼル』の世界観ぴったりに仕上げていただいた。

15秒といえども、私は確かにアニメの演出をした。
だから、アニメ監督を名乗ってもいいかしら。なんて冗談を、心の中で呟く。

放送後、アニメや映画の監督のプロフィールを載せた某データベースサイトに本当に私のページが作られていた。
流石に恥ずかしい。

いや、15秒だって本気で面白いと思うものを作ったんだから誇りに思うべきではないか。
いやいや、流石に。
いや、照れるのは関わっていただいた皆さんに失礼じゃないか。

恥じらい、誇り、やっぱり恥じらい、責任感。
ぐちゃぐちゃに混ざる。

牧島俊介●テレビ東京入社3年目を迎えた現役テレビ局員。高校時代に、お笑いコンビ「虹の黄昏」に出会い、衝撃を受ける。自ら企画した番組は、柴田理恵・マユリカ中谷出演のバラエティ番組『ナキヨメ』など。

<第2回に続く>

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