出自も価値観も違う者同士が理解し合うために、全力で向き合う主人公の姿が現代社会に訴えるものは? 感涙必至の青春コミック 『ヒト科のゆいか』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/7/17

ヒト科のゆいか
ヒト科のゆいかにことがめ/集英社

 近くの席の子には猫耳が生えていて、また別の子はカッパ。また別の子は「あぅ」としか言葉を発せなくて、また別の子は、どういうわけか四六時中帽子を脱ぎたがらない。そんな不思議な学校生活を描いた物語にこんなにも胸がいっぱいになるとは思わなかった。『ヒト科のゆいか』(にことがめ/集英社)は、ヒトと亜種族の青春ストーリーだ。

 物語の舞台は、亜種科、半亜種科、半ヒト科、ヒト科という4種類の特徴種が共存している世界。ヒト科であるゆいかは、半亜種科のゆきみと幼い頃から親友同士だ。ふたりは同じ学校に通っているが、クラス分けは特徴種ごとにされるため、同じクラスになったことはない。だがある時、特徴種を無視したクラス分けをする弥多高校という高校があることを知ったゆいかは、「ゆきみと同じクラスになりたい」という理由でその高校を志し、ゆきみもそれに同調する。だが、そんな時、ゆきみの雪女としての特性が覚醒し、ゆいかを傷つけてしまう。それでもゆいかは一緒にいたいと願うが、さらにゆきみを追い詰める。

自分が触れただけで相手が倒れていくとこなんて…見たことも無いし考えたことも無いだろ

同じところで一緒に育ってきたはずなのに…私たちが見てる世界は全然違う

 決定的な事件によりゆいかとゆきみは離れ離れに。そして、ゆいかはゆきみへの思いを胸に、ふたりで通うことを夢見た弥多高校にひとり進学する。

 ゆいかの胸には常にゆきみがいる。あの時ゆきみに何をしてあげられただろうか、これから何ができるだろうかと悩み、どうすれば種族の壁を壊すことができるのかと考え続けている。だから、種族がバラバラのクラスメイトたちにも全力でぶつかっていく。しかし、最初に会った子とは言葉が通じないし、カッパの亜種のクラスメイトに話しかければ「ワタシ友達とかいらないタイプなの!」と避けられ、別の子には「踏み込みすぎだよ」と注意される。きっと知らなきゃいけないこと、気をつけなければならないことがたくさんある。それでもゆいかはめげない。「じゃあ嫌なこと…あたしにどうにかできたりしないかな」——種族を問わず、愚直なまでに一人一人と向き合うゆいかの姿にハッとさせられる。出自も価値観も異なる者たちを理解し、真剣に向き合うゆいかの真っ直ぐさは、次第に多くのクラスメイトたちの心を解きほぐしていく。そのさまについ目頭が熱くなるのはきっと私だけではないはずだ。

「多様性を認める」とか「共存」とか、きっと口で言うほど簡単なことではない。だって、私たちは自然と他人と比べてしまうし、周りと違えばどうしたって戸惑ってしまう生き物だ。それは、この物語の登場人物たちだって同じ。それぞれが悩みを抱え、苦しみ、孤独を感じている。そんな世界の中で一体何ができるだろう。ゆいかやクラスメイトたちの台詞ひとつひとつが心に突き刺さってくる。葛藤しながらも前へ前へと進んでいく登場人物たちの姿が本当にまぶしい。この物語にはこれからの時代を生きるためのヒントにあふれている。

 どんなヒトにも悩みがあり、葛藤がある。だけれども、決して一人じゃない。一人で乗り越えられない壁も、きっと仲間とならば乗り越えられる。その先に見える景色はどれほど輝いていることか。青春のきらめきと痛み。青春のすべてが詰まったこのコミックを、今の時代にこそ多くの人に読んでもらいたい。

文=アサトーミナミ

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