極度の“コミュ障”が異世界で奮闘。共感と笑いが交錯する新感覚ファンタジー!「次マン」ノミネートの人気作『コミュ障、異世界へ行く』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/7/4

※この記事には刺激的な画像が含まれます。また試し読みの一部の画像は加工して掲載しております。

コミュ障、異世界へ行く
コミュ障、異世界へ行く山下将誇:原作、宇上貴正:作画/LINEマンガ

 転生先で“チート能力”を覚醒させた主人公が、異世界で無双する。そんな昨今よく見られるファンタジー作品の王道を覆す異色作が投稿サービス「LINEマンガ インディーズ」発のLINEマンガオリジナル作品『コミュ障、異世界へ行く』(山下将誇:原作、宇上貴正:作画)である。

 ユーザー参加型のマンガ賞「次にくるマンガ大賞 2025」Webマンガ部門のノミネート作品であり、新天地でも人の本質は変わらないと気付かされる展開に、グッと引き込まれてしまう。

 タイトルに偽りなしで、主人公の山岸ジュンペイは生まれながらにして、出産を担当した医師にすら目を伏せるほど極度の「コミュ障」だ。大人になっても本質は変わらず、唯一、彼の生きがいとなっていたのがスマホゲー。「召喚士」として孤独に細々とゲームを楽しんでいたが、エナジードリンクに頼る徹夜続きの生活がたたったのか、28歳で現世を去ってしまう。

『コミュ障、異世界へ行く』
『コミュ障、異世界へ行く』©Shogo Yamashita・©Takamasa Ukami/LINE Digital Frontier

 そして、目が覚めたジュンペイはイケメンでオッドアイの召喚士として、生前ハマっていたゲームの世界へと転生。その世界の仕組みを隅から隅まで把握しているはずの彼が無双できるかと思いきや——、根っからの「コミュ障」そのままの立ち振る舞いが、なぜだか愛らしくなってくるのだ。

 例えば、ジュンペイはパーティーを組めない。冒険者たちの集うギルドで誰にも声をかけられないどころか、いわゆる「ウェーイ」系な冒険者に声をかけられて、気を失いかける彼にはどこか“あるある”と納得できる。特に、思わぬ相手のテンションや場の空気に圧倒された経験のある人にとっては、強い既視感をおぼえるはずだ。

『コミュ障、異世界へ行く』
『コミュ障、異世界へ行く』©Shogo Yamashita・©Takamasa Ukami/LINE Digital Frontier

 それでも、召喚士として仲間のために戦う。自分に力を貸す召喚獣の「盾」として、必死に身を挺するジュンペイ。根っからの「コミュ障」はいつになってもそのままだが、戦いの先で彼の姿に惹かれていく周囲の人びとも、この作品には欠かせない。

『コミュ障、異世界へ行く』
『コミュ障、異世界へ行く』©Shogo Yamashita・©Takamasa Ukami/LINE Digital Frontier

 壮絶な過去を背負うギルドマスターの少年、意図せず命を救ってくれた彼に恋心を寄せるエルフの少女、そして、物言わずともジュンペイのために命からがら戦う召喚獣と、様々に登場するキャラクターはどれも魅力的だ。

 新天地へ行けば、昨日までにあったうだつの上がらない人生がガラッと変わる。しかし、現実はそう上手くはいくはずがない。鬼気迫るアクションシーンにも引き込まれるが、異世界に放り出されたジュンペイのとまどいもコメディテイストで描かれる本作は緩急ある展開で飽きさせず、人間味に溢れている。

『コミュ障、異世界へ行く』
『コミュ障、異世界へ行く』©Shogo Yamashita・©Takamasa Ukami/LINE Digital Frontier

 意図せず迷い込んだ世界でいかにして立ち回り、自分の存在意義を見出していくのか。言葉をかわすのが苦手で基本的に「筆談」で周囲との対話を図る「コミュ障」なジュンペイの生きざまは、不思議とリアルでもある。自分がもし“ジュンペイだったとしたら”と想像しながら読むと、さらに没入感が増す良作だ。

文=カネコシュウヘイ