人間がいなくなった世界に残された人工生命体。命の意味を探し求める孤独な旅の行く末は…【漫画家インタビュー】
公開日:2025/7/7

最新の書籍や人気の漫画作品の情報を発信する「ダ・ヴィンチWeb」。今SNSを中心に話題を集めているホットな漫画を、作者へのインタビューを交えて紹介する。
ピックアップした作品は、荒廃した世界を舞台に生命の価値や存在の本質を静かに問いかけるSF漫画『ハロー・ワールド ¥e』。哲学的なテーマと静謐な世界観が印象的な本作は、X(旧Twitter)やpixivを中心に人気が高まっており、2万以上のいいねが集まる投稿も。
作者・小雨大豆(@kosamedaizu)さんにインタビューを行い、創作のきっかけやこだわりについて語ってもらった。
本作の舞台は、太陽活動の異常な活発化により滅びゆく星となった地球。気候変動はもはや人間の手に負えないほど深刻化し、人間たちは次々とこの星に見切りをつけ、新天地を求めて宇宙へと旅立っていく。
だが、老いた科学者・マスターは動かない。死期を悟った彼は地球に残り、暇つぶしと称して、自身の持てる知識をすべて注ぎ込んだオートマタ「フィズ」を作り上げた。マスターはフィズをわが子のように慈しみ、命の脆さや神の概念、生と死の意味を語り伝える。
そして訪れた別れのとき。「マスター亡き今、マスターの意思を継ぎ、この星と人類の行く末を記そうと思う」。
命を持たぬ存在は、命の意味を知ることができるのか——。
命の定義や個々の存在の意味を、静かに見つめる物語を描きたかった
ーー『ハロー・ワールド ¥e』を創作したきっかけや理由を教えてください。
SFや終末ものの雰囲気のある作品を作ってみたくて、「命の定義」や「存在の意味」を静かに見つめる物語にしたいという思いがありました。
人間がほぼいなくなった世界を舞台に、人工知能やオートマタといった「生きているとは言えない存在」たちにこそ、生や死について問いかけてみると面白いかなと思い、このような形になりました。
ーー こだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントを教えてください。
お話の舞台は荒廃した世界ですが、その中にある“穏やかな時間”や“静かな愛情”を丁寧に描くことを意識しました。読み手の方にも、胸の奥にじんわり残るような感覚を持ってもらえたら嬉しいです。
ーー 特に気に入っているシーンやセリフを教えてください。
毎回試行錯誤しながら描いているので、強いて言えば毎回が印象深く、特にここ! と断言できる場面は実はありません。
ーー 命を持たない存在であるフィズに「命の重さ」を伝えるマスターには、どのような背景や思いがあるのでしょうか。
マスターは、命を「所有するもの」ではなく「継承されていくもの」として捉えていた人物かもしれないな、と描いていて思いました。自身がいつか必ず命を終えることを前提にして、その証拠や温度を誰かに残したいと願っていて、その託す相手がたまたま人工の存在だった……というような感じです。
ーー マスター自身にも、フィズとの関わりを通して成長したり、影響を受けたりした部分はあるのでしょうか?
あると思います。マスターはフィズを“作り手としての責任”から見守っている部分も多かったのですが、少しずつ成長するフィズを通して自分自身の人生をも振り返っていたのかなと思います。教える側でありながら、同時に学び手でもあった――そんな関係にしたいと思って描きました。
ーー 現在、Xにてフィズの視点による第二部を連載されていますね。第二部では、大陸に残る他のAIモデルとフィズがともに歩む可能性はあるのでしょうか?
はい。フィズが自分以外のAIと出会い、「命の意味」を独りでなく他者と共有しようとする過程が、第二部のテーマのひとつになっています。孤独の中にも希望を見出していくような展開にしたいと考えています。
ーー 今後の展望や目標を教えてください。
作品を通して、読む方の心の中に静かに残るような余韻を届けていけたらと思っています。自分自身が問いかけたいこと、大切にしている感覚を、これからも漫画という形で表現していけたら嬉しいです。
ーー作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。
いつも読んでくださってありがとうございます。登場人物たちの静かな思いややりとりを、ゆっくり味わっていただけたら幸いです。
これからも少しずつ描き続けていくので、どうぞよろしくお願いいたします。