「理解ある女を気取ったけど本当はすがりつきたかった」不思議なミュージアムに展示されていたのは元カレとの思い出!? 心を癒やす日常ファンタジー【書評】
公開日:2025/8/10

自分の心の中にある大切な記憶や想いを展示するミュージアムがあったなら、あなたは行ってみたいと思うだろうか。『自分ミュージアムへようこそ』(あきばさやか/KADOKAWA)は、悩める人たちが「人の心を映す」不思議なミュージアムに招待され、自身と向き合っていく温かな連作短編漫画だ。
本作では、「自分ミュージアム」に招待された人たちが、自分の心を客観的に見つめ直していく姿が優しいタッチで描かれている。登場人物たちは、年齢も性別も多様で抱える悩みもさまざま、もちろん、ミュージアムの展示もそれぞれ千差万別だ。彼らは、展示を見て回る中で、コンプレックスを新しい角度から捉えられるようになったり、見落としていた大切な記憶を思い出したり、閉じ込めていた気持ちに気づいたりしていく。共感したり、はっとさせられたりしながら読み進めていくうちに、あなたも自分自身の心とじっくり向き合いたくなるだろう。
大好きだった彼氏と別れたばかりの女性のもとに届いた「自分ミュージアム」の招待券。そのミュージアムの一角では、元カレとの思い出をたどる企画展が催されていた。彼女は、その中に「傷ついたかわいそうな私の心」と題された、ヒビ割れて欠けたハート型のオブジェを見つけ、自分の心の傷にようやく気づく。失恋の痛みと向き合い、思い切り泣いたすえに引きずっていた失恋に区切りをつけると、その企画展は跡形もなく消えてしまうのだ。
彼女のように、人生において大きな出来事が起これば、「自分ミュージアム」の展示は変わる。本作を読んだら、ぜひ「人の心を映すミュージアムは今、どんな展示をしているか」を想像してみてほしい。そして、「これからどんな展示にしていきたいか」を思い描いてみてほしい。きっと、明日への一歩を前向きに踏み出せるようになるだろう。
読み終えたあと、素敵な展覧会を見終えたような、満ち足りた気持ちでいっぱいになる本作。ざわついた心や疲れた心を優しく癒やす、お守りになるに違いない。