「え? なんて?」喋り声は聞こえても内容は分からない。聞き取り困難症男子の日常を描く【書評】
公開日:2025/7/19

会話は聞こえていてもイマイチ聞き取れず、その内容を理解するのが難しい。そんな聞き取り困難症(LiD)・聴覚情報処理障害(APD)を題材にした漫画が『聞き取りが苦手すぎる男子の日常』(雨桜あまおう/KADOKAWA)だ。
自分を知ること・誰かに頼ること・理解し合うこと。本作ではとても大切なテーマが丁寧に描かれる。
主人公の橘結友(たちばなゆいと)は高校生。にぎやかな場所や、人が多い環境では相手の話が聞き取れず、取り残されてしまうことが多かった。聞き取りが苦手なことを周囲に隠してきた結友だったが、ある日、親友の白川銀司(しらかわぎんじ)に見抜かれてしまう。
そこで結友は「聞き取り困難症」であることを打ち明ける。銀司は結友の話を受け止め、共に対処法を模索していくのだった。
日常のあらゆる場面で発生する「聞き取れない問題」を、かつての結友は「なんとなく」で乗り越えてきた。空気や表情で察し、その結果返答を間違えてしまって気まずくなったことも。しかし、自分の特性を理解してくれた銀司の存在に救われ、自分自身ともしっかりと向き合おうとする。
症状の重さや種類、感じ方は人それぞれだからこそ、関わり方の正解が多岐にわたるのが聞き取り困難症だ。本作は結友と銀司の関係を通して、聞き取り困難症と向き合うひとつのあり方を伝えてくれる。特別視するのではなくその人の個性として受け入れていく過程が、温かい。
聞き取りに限らず、立場や性別・病気・特性などさまざまな要因で、「自分が普通と違うのでは」と不安になることはあるはず。そんなモヤモヤした気持ちを「仕方ない」と受け入れてきた人にこそ、ぜひ読んでもらいたい。
この物語がひとりでも多くの人の心に届くことを願っている。
文=ネゴト / fumi