一見すると遠慮がちで良い人。しかしその笑顔の裏に隠し持つのは状況を思い通りにする強力な武器――あなたも思い当たる場面はありませんか?【書評】

マンガ

公開日:2025/8/7

「受動的攻撃」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これはおもに、攻撃的に見えない言動や態度によって、相手を困らせたり、怒らせたり、あるいは支配したりしようとする行動を指す。本人からしたら「攻撃の意図はない」ケースもあるが、結果としてこれらの行為が人間関係を悪化させるケースは少なくないのである。

被害者姫 彼女は受動的攻撃をしている』(水谷緑/竹書房)は、そんな受動的攻撃の事例とそれに伴う人間関係の変化、心理的攻防の数々を描いた作品だ。

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 主人公・アヤは、どんなときも笑顔を絶やさず、自分の意見をほとんど主張しない穏やかな女性。だから周囲の評価は典型的な“良い人”だ。しかしその実、彼女は自分が不利な状況に陥りそうになると、表面上の対立を避けながら間接的に相手を追い詰める「受動的攻撃」を繰り出す。

 例えば、そりが合わない上司に対し、アヤは決して反論しない。注意されればうつむき、声を震わせて「申し訳ありません」と殊勝にふるまう。涙ぐんだ表情は被害者そのものだ。そんな姿を見た周囲からは同情の声が上がり、「あの上司、キツすぎない?」と噂が広まり始める。やがて「パワハラの可能性あり」と人事に告発がなされて上司は異動に。アヤがあらゆる方向から繰り出す心理攻撃は、まるで見えない糸で人形を操るようにターゲットを捉える。本作の見どころは、そんな「受動的攻撃」というものが、どんな過程で人を追い詰めていくかを非常にわかりやすく描いているところだ。

 人間関係において善意と悪意、表と裏の境界線はとても曖昧だ。学校や職場で、誰も悪くないように見えるのになぜか空気が重くなる瞬間を経験したことはないだろうか。もしかしたらそれは、誰かが意図的に、もしくは無意識にあなたが「受動的攻撃」を行ったからかもしれない……。

文=ネゴト / 糸野旬

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