「自分は他の人より恵まれている」なんて思わないで。介護経験を振り返って、必要だと感じる自分を守る思考【著者インタビュー】
公開日:2025/7/31

※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
小さい頃から自分を罵倒し暴力を振るってきた父が、がんで余命1年と宣告された。一人娘・ヒトミはなるべく父と関わらずにいられるように介護サービスを検討、実行に移す。しかし父は他者の介入を拒絶。頼れる親族もいないヒトミに全ての負担がのしかかる。相変わらず心無い言葉を浴びせる父。育児と仕事にも影響が出るほどの物理的負担。やがてヒトミには“介護うつ”の症状が出始めて……。
毒親、介護、ふたつの要素が絡み合う『余命300日の毒親』(枇杷かな子:著、太田差惠子:監修・解説/KADOKAWA)。自身も親の介護中に描いたという著者の枇杷かな子さん。ご自身も“介護うつ”になったという枇杷さんの介護の経験、多忙な中でも本作を通して伝えたかったことを聞きました。
――ご自身が介護に苦しんでいる最中に、かけてほしかった言葉はありますか?
枇杷かな子(以下、枇杷):うーん……一緒にグチりたかったですね。グチるって悪いこととも思われると思うのですが、やっぱり吐き出す場が欲しかったなと思って。「もうちょっとで終わるから頑張ろうね」とかじゃなくて、「ほんとぶん殴ってやりたいよね」みたいな本音を言える場があったらよかったなと思います。優しくオブラートに包んだ言葉で無理させようとするんじゃなくて、一緒に逃げられる方法を探したり。あと本当にキツかった時は「ただ話を聞いてほしい」と思っていたので、私は最終的には精神科に状況を相談したのですが、もっと早くに医師に話してたらなと思っています。
――なるほど。受け取る側も「励ましたほうがいいのかな」「マイナスなことを言ってはいけないんじゃないか」と思ったりすると思うのですが、吐き出す場所が必要というのは確かにと思いました。もうひとつ、例えばパートナーが協力的だとか、自分にとって条件がいい要素があると「自分は恵まれているから耐えないといけない」と感じる方が多いんじゃないかと思って。そう悩まれている方にどんな声をかけたいですか?
枇杷:私自身、夫が協力してくれたのもあって、「他の人よりは恵まれているのに、どうしてこんなに苦しいと思うんだろう」と思っていました。でも恵まれているって、他人にはもちろん自分にも思ってはいけないと思うんです。夫がいても子どもがいても、追い詰められてしまう可能性はあります。「恵まれている」と自分にも他者にも思ってしまうのは人間だから仕方ないと思うんです。でもそれを使って自分を追い込んでしまってはいけない。これは全般的に言えることですが、自分をないがしろにするのではなく、守る思考を持ってほしいです。
文・取材=原智香