多忙で余裕のない現代人の生活を、もふもふの白クマがお手伝い!家事のコツも学べる癒し系マンガ『家政婦のクマさん』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/7/11

家政婦のクマさん
家政婦のクマさん蟻子/マッグガーデン

 お気に入りの家具に囲まれて充実した暮らしを手に入れたい。新生活が始まるとき、多くの人はそうした自分の理想を夢見て意気込むのではなかろうか。しかし現実はなかなかそうもいかない。仕事やモチベーション、体調、周囲の環境など、理想の暮らしを揺るがす状況は日々襲ってくるし、一度崩れてしまうと「なんか面倒だな」「もうどうでもいいや」とそのまま理想からは程遠い生活へ一直線なんてことにもなりかねない。

家政婦のクマさん』(蟻子/マッグガーデン)は、そんな現代の「暮らしの困りごと」に手を差し伸べてくれる、可愛いクマ家政婦さんのお手伝いと依頼人の生活、心の変化を描いたコミックス。マッグガーデンが運営する無料ウェブコミックサービス「マグコミ」などで連載され、2025年4月には単行本も発売されて一層の人気を集めている。

 本作品の中心となっているのは、とある町の一角にある「喫茶ポーラー」。喫茶ポーラーは喫茶店であるとともに、家政婦のクマを派遣する家事代行サービスの窓口としての役割も担っている。

家政婦のクマさん

 そしてそこには、様々な事情からクマの手を借りたい人々が集まってくるのだ。

 例えば、27歳の女性会社員・森緒斗(もり おと)。3年前に会計事務所で働き始めた緒斗は、入社当時、30歳までに「絶対合格します」と税理士試験合格を目指して燃えていた。それと同時にワンルームマンションで一人暮らしを始め、優雅に暮らす自分を想像し、「私ならちゃんとできるはず」と手に入れたいものすべてを手に入れられると信じていた。でも現実はそううまくいかず、仕事と勉強に忙殺されて自分を雑に扱う日々。

家政婦のクマさん
家政婦のクマさん

 そんな中でひょんなことからクマさんと出会い、喫茶ポーラーへたどり着いて、家政婦サービスを利用してみることになる。

 やってきたクマさんは、手際よく次々と散らかった部屋を片づけ、物をジャンルごとに箱へ仕分けしていく。あとは緒斗自身がそれらを選別していくだけ。その過程で、緒斗は自分がすべてのノルマに手を出そうとしてしまう自分の特性に気づいていく。

家政婦のクマさん
家政婦のクマさん
家政婦のクマさん

 一気にすべてを終わらせなくても、できる分だけ、一つずつ片づけていけばいい。そこにたどり着いたことで、自分が本当に大事にしたいことが何だったのかを思い出し、緒斗は心の曇りが消えて晴れやかな気持ちを取り戻すことができた。

 人には、ときに自分を顧みる時間が必要なもの。忙しいからとそれを疎かにしていると、いつの間にか身の丈に合わないタスクを抱えてしまい、ふと我に返ったとき「私はいったい何をしているんだろう?」と虚無に襲われてしまう。クマさんは、そんな心のゆとりの大切さ、振り返ることの重要性をそっと優しく思い出させてくれる。

 緒斗のほかにも、休日なのに家族に放置され距離を感じている原陽平(43歳・男性)、フルタイムで働き平日の育児はワンオペでいっぱいいっぱいの泉那津(40歳・女性)、妻を亡くし、気難しい性格も相まって孤立しがちな榊義実(70歳・男性)など、さまざまな事情から困りごと・悩みを抱える人々が登場する。

 頑張りすぎてしまう人、真面目な人ほど、慌ただしい現代社会で自らの余裕を重視するのは難しい。だからこそ、「なんか疲れたな」「自分のために時間を使ったのはいつだろう?」という人であればあるほど、『家政婦のクマさん』の手助けが必要なのではないかと思う。本書でほんのひとときでも肩の荷を下ろし、充電をして、新たな活力に繋げてほしい。

文=月乃雫

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