魔法少女×恐怖心!? TXQ FICTION第3弾『魔法少女山田』がいざなう予測不能な世界【鼎談】大森時生×背筋×梨

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公開日:2025/7/14

 7月14日、21日、28日の深夜24時30分から、テレビ東京で「TXQ FICTION」第3弾『魔法少女山田』が放送される。「TXQ FICTION」は、実験的なフェイクドキュメンタリー番組のレーベル名。これまでも、55年前に行方不明になった女性の公開捜索番組『イシナガキクエを探しています』、ある家族への謝罪番組の真実を追う『飯沼一家に謝罪します』が放送され、大きな話題を呼んだ。

 TXQ FICTIONの演出・プロデューサーであるテレビ東京の大森時生氏、大森氏とともに「恐怖心展」を企画・制作しているホラー作家の梨氏、両名と親交の深いホラー作家の背筋氏を交え、同番組の見どころに迫る。

■ホラーの仕掛け人3名の共通点は?

————今回集まっていただいたお三方は、ホラーを中心にさまざまな分野で活躍されています。そもそも皆さんは、どういうきっかけで出会ったのでしょうか。

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大森時生氏(以下、大森):僕と梨さんが最初にご一緒したのは、『このテープもってないですか?』という番組でした。梨さんのnoteを読んでファンになり、一緒に番組をつくれたら面白いだろうなと思い、お声がけしたんです。

梨氏(以下、梨):『このテープもってないですか?』と、大森さんがプロデュースしたAマッソさんのお笑いライブ『滑稽』の構成をほぼ同時並行でやらせていただきました。私と背筋さんとの出会いは、背筋さんからDMで凸られたのがきっかけです。今では一緒にアイスやパフェを食べに行く仲です。

背筋氏(以下、背筋):ずっと梨さんのファンで、大森さんと制作した番組ももちろんすべて拝見していました。それでファンレターを送ったんですよね。まだ『近畿地方のある場所について』の書籍化も決まっていませんでしたが、「よければ読んでみてください」と。

梨:URLが届いて、実際読んでみたらすごい怖くて。これ新手のスパムかなって思いました(笑)。

おおもり・ときお●1995年、東京都生まれ。2019年、テレビ東京に入社。プロデューサーとして『このテープもってないですか?』、『SIX HACK』、TXQ FICTIONシリーズなどを手掛ける。7月18日~8月31日まで渋谷・BEAMギャラリーで開催される『恐怖心展』をはじめ、展示や舞台の企画・演出にも携わる。
おおもり・ときお●1995年、東京都生まれ。2019年、テレビ東京に入社。プロデューサーとして『このテープもってないですか?』、『SIX HACK』、TXQ FICTIONシリーズなどを手掛ける。7月18日~8月31日まで渋谷・BEAMギャラリーで開催される『恐怖心展』をはじめ、展示や舞台の企画・演出にも携わる。

──お互いにどんな印象をお持ちですか?

梨:私が大森さんを知ったのは、テレビ東京若手映像グランプリ2022で優勝した番組『Raiken Nippon Hair』でした。架空の国の架空の言語の番組が、なぜかえんえん流れるという構成で、「何これ?」と。その頃から、ろくでもないことをしている人という印象でしたし、背筋さんに対する印象も近いものがあります(笑)。

大森:当時は、ネット上で背筋さんと梨さんが同一人物という噂もありましたよね。

梨:そうでした。私が背筋さんであり、雨穴さん(ホラー作家)でもあるとされた時期もありましたね(笑)。

大森:僕が一番伝えたいのは、おふたりがとてもいい人だということなんです。まず、人柄がすごくいい。それに、梨さんも背筋さんもホラーの作り手というイメージがありますが、それだけでなく知識や興味の対象が幅広いんです。ホラー特化型の方は、作るコンテンツの幅がどうしても狭まってしまう傾向がありますが、おふたりは何にでも詳しくて、着眼点も面白い。背筋さんは、よく数珠をブレスレットのようにつけているおじさんの話をしているイメージですね。僕もその存在は認識していましたが、よく考えたら確かに妙に気になるポイントだなと。背筋さんに言われて気づきましたし、ある種意地悪な視点も含めて、話していて楽しい方だなと思います。

背筋:私はただただおふたりのファンなんです。大森さんのことは、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』という番組で知ったのかな。その少し前に、梨さんが書いた文章も読ませていただいて。個人的にも大好きですし、おふたりの作品の手触り、醸す雰囲気が似ていると思いました。同じ方向性のものを作る方々だという印象ですね。

せすじ●ネット小説サイト「カクヨム」に発表した『近畿地方のある場所について』がSNSで話題を呼び、2023年、同作でデビュー。8月8日より映画も公開される。他の著書に『穢れた聖地巡礼について』『口に関するアンケート』がある。9月27日まで、六本木ミュージアムにて『1999展』を開催中。
せすじ●ネット小説サイト「カクヨム」に発表した『近畿地方のある場所について』がSNSで話題を呼び、2023年、同作でデビュー。8月8日より映画も公開される。他の著書に『穢れた聖地巡礼について』『口に関するアンケート』がある。9月27日まで、六本木ミュージアムにて『1999展』を開催中。

──大森さんがプロデュースした番組・イベント『祓除』には、梨さん、背筋さんも構成として参加されていました。今振り返って、あの作品はいかがでしたか?

大森:2カ月ほど前にたまたま観直しましたが、手前味噌ではありますがやっぱり異常なくらい面白かったですね。異様な迫力がある作品だったと思います。しかも、モザイクがかかった状態とはいえ、背筋さん、梨さんのおふたりにも出演していただきました。20年後くらいに、「実はあの番組にふたりが出ていたんだって」と伝説的に語られるようになっていたらうれしいですね。

■王道フォーマットをずらすことで恐怖心が生まれる

──大森さんと梨さん、そして株式会社闇の皆さんは、昨年『行方不明展』という展示を企画・制作しました。そして、今年7月18日から8月31日まで、『恐怖心展』を開催します。さらに、大森さんがプロデューサーを務めるTXQ FICTION第3弾では、この展覧会にあわせて「恐怖心」をテーマにした『魔法少女山田』を放送するそうですね。こちらはどんな番組でしょうか。

『魔法少女山田』
『魔法少女山田』Ⓒテレビ東京

大森:魔法少女ものは、昔ながらの子ども向けコンテンツよりも、オマージュのほうが多いジャンルです。要は、王道の魔法少女からずらすことで面白さを生んでいるんです。たとえば『魔法少女まどか☆マギカ』なら、魔法少女ものなのに鬱展開なのが新しかったじゃないですか。そんなことが起こるなんて、非常に珍しいジャンルで興味を持っていましたし、恐怖心をテーマにするときにうってつけなのではないかと思ったんです。
 こうした“ずらし”は、ある意味恐怖心にも近いものがあります。普通だったものが少しずらされることにより、恐怖心が生まれる。黒沢清監督は「普通に会っていた友達が真顔になる瞬間が一番怖い」と言っていましたが、まさにそういうこと。そこで今回は「恐怖心」をテーマに、魔法少女もののフェイクドキュメンタリー番組を作りました。内容はまだ言えないことが多いのですが、ぜひご覧いただきたいです。

梨:私は“魔法少女”と“恐怖心”がつながらなさすぎて。メインビジュアルを見ても何のことやらという感じなんです(笑)。

背筋:松本人志の映画タイトルみたいですよね。

──梨さんは、大森さんと一緒に『恐怖心展』を制作しています。『魔法少女山田』の内容は、ご存知ないのでしょうか。

梨:皆さんと同じくらいの情報しか知りません。「こういう脚本を予定しています」という草稿は共有されましたが、あえて見ないようにしていました。何が起こるのか楽しみです。

なし●ホラー作家。2021年、noteで発表した「瘤談」が話題に。22年、マンガ『コワい話は≠くだけで。』の原作を担当。同年、『かわいそ笑』で作家デビュー。他の著書に『6』『お前の死因にとびきりの恐怖を』などがある。『恐怖心展』の企画・制作にも関わり、開催に先行して電子書籍「恐怖症店」を発表。
なし●ホラー作家。2021年、noteで発表した「瘤談」が話題に。22年、マンガ『コワい話は≠くだけで。』の原作を担当。同年、『かわいそ笑』で作家デビュー。他の著書に『6』『お前の死因にとびきりの恐怖を』などがある。『恐怖心展』の企画・制作にも関わり、開催に先行して電子書籍「恐怖症店」を発表。

──前2作のように、考察の余地のあるモキュメンタリーホラーという番組になるのでしょうか。

大森:今回は怖いシーンがないと思っていて。でも面白くなったと思います。ただ、僕としては面白すぎるものは危ないという感覚もあるんです。

背筋:賛否両論あるからこそ面白いってことですか?

大森:いや、僕はそれなりに偏っているので、そんな僕にここまで刺さるということは世間では刺さらない可能性もあるな、と。あまりにも自分の好みに合いすぎるときは、ちょっと危ないなと思うようにしています。

背筋:前2作とは、違う路線のタイトルですよね。どういう意図があるんですか?

大森:『イシナガキクエを探しています』『飯沼一家に謝罪します』というあの大喜利に限界が来たので(笑)。探して謝罪したら、もう終わりじゃないですか。そろそろ変えないと。

背筋:夢がないこと言うなぁ(笑)。

梨:でも、2本で止めたのはいい判断じゃないですか? 3本まで行くともう戻れないから。

大森:3本続ける勇気はなかったです(笑)。

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