うつ病診断から3年。家賃8万円、築30年の2DKに猫と暮らす女性の静かで誠実な日々を丹念に描く【書評】
公開日:2025/7/29

『それでも暮らしが続くから』(副島あすか/KADOKAWA)は、うつ病と共に生きる著者が描く、静謐で優しいコミックエッセイだ。美しく繊細なイラストが、疲れた読者の心に優しく寄り添う。
家賃8万円、築30年の2DK。そこに暮らすのは、イラストレーターの女性と猫の「たより」。彼女は3年前にうつ病を発症し、一時は生きることそのものを手放しかけた。そんな彼女が、日々の小さな“できた”を積み重ねながら生活を続けていく様子が、繊細で美しいモノクロのイラストと共に描かれている。
「喫茶店に行く」「病院に行く」「部屋を片付ける」彼女の日々を彩る出来事ひとつひとつは、ありふれた日常のワンシーンかもしれない。だが、彼女にとってはそれが自分との大切な約束であり、生きるための希望でもある。
猫とまどろみ、断捨離をして少しだけ部屋が整い、思い出の品に触れて心が揺れる。そんな何気ない日々の記録には、どこか祈りのような静けさと誠実さがにじむ。
小さな約束は、自分を大切にする上で大きな意味を持つ。つい後回しにしてしまうことをひとつでもこなす。それだけで「自分はちゃんとできている」と感じられる。ほんの少しでもそんな自信が芽生えた瞬間、心は軽くなるのだ。
日々の生活を描くということは生きた証を刻むことであり、未来への希望でもある。静かに、しかし、たしかに進んでいく彼女の暮らしを見ていると、自分の日常もまた愛おしく思えてくる。
何か大きな事件が起こるわけではない。だが、彼女が自分の心に耳を傾け、気持ちに折り合いをつけながら一歩ずつ進んでいく姿が、読む人の心をじんわりと温める。
日々のなかでつい自分の感情を置き去りにしてしまう人にこそ、この作品は寄り添ってくれるだろう。心が少し疲れている、何かに悩んでいる。そんなときにぜひ手に取ってほしい。読めば今日も生きていてよかったと思える、そんな優しい作品である。
文=ネゴト / fumi