SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第49回「守護霊」
公開日:2025/7/27
「俺、守護霊みえるんだ」
そう言われたら、あなたはどうしますか。私の場合はただ、「そうなんだ」と返しました。
スピってる、とかオカルトとかを私は、絶対信じるでもなく全く信じないでもなく、滅茶苦茶フラットに接してきた。なんかそういうものが有るんだとすれば、きっと有るんだろうし、無いんだとすれば、そりゃ無いんだろうくらいに平熱。
ただ生まれてこの方、占いに行ったこともなければ風水的なものも参考にしたことがない。あまつさえおみくじすら片手で数えられるくらいしか引いたことがないので、どちらかと言えば信じない側にいる人間なのかもしれない。それはおそらく出生地や環境が起因しているのではなかろうか。歌舞伎町で生まれているため、よーいドンでもはや気が悪そうだし、そのまま歌舞伎町という環境で育った私は、気がどうのこうのって観点から見れば致命的な気がする。もしそっち系の外的要因に左右されるのが人生なのだとすれば、これほど残酷なことはないだろう。しかし、音楽人生にストラグルしながらも物凄く良い人たちに囲まれ、そのおかげで「最高に面白い人生」だ、と現時点まで思えている。
だから「俺、守護霊みえるんだ」と真っ直ぐ同じトーンで二度目を言われるまで、「じゃあ見てよ」と言わなかったのだろう。
守護霊が見えると豪語する友人は、同じバイト先にいる同い年。陰陽師での修行経験があるらしく、ようやっと守護霊がみえる段階まで行きついたということだった。ちなみにこれは十年以上前の話である。アルバイトのお金で生きていて、アルバイトのお金で音楽活動をしていたときの話。最近のことのように感じるが、気がつけば結構前。そりゃ四十が目前なわけだ、とほほ。
昼過ぎからフルタイムで働き、一万円には満たないが本日もしっかりと稼いだという実感で胸をいっぱいにした状態で、始発待ちができる居酒屋さんでその友人と向き合って座った。
一杯目のビールに口をつける。なんだか生乾きっぽい臭いのするグラスではあったが、一杯目のビールは格別に美味しい。
「それじゃア、みるね」
「いや、早くね? いきなり?」
「そうかそうか、あはは」
ビールを飲みながら楽しそうに笑う友人の顔を盗み見ながら、「こいつ、マジなのかな」と思った。正直、物凄く半信半疑だ。ちなみに私がそっち系の話にあまり関心がないのは、言われたら気にしてしまうという自分の性格も大きく影響している。嘘でも誠でも、良いことも良くないことも、しっかり刻まれてしまうことを知っているからだ。良くない方は、特に。関心がないことと、刻まれてしまう性格、この二つが私とそっち系の話との距離の正体。
最近のシフトの状況や、新しく入ってきた大学生の子が可愛いとか、そんな話しをアイドリングとして、いよいよ肝が据わってきた私は三杯目にお茶割りが到着したタイミングで友人に言った。
「そしたらみてよ」
「お、わかった。それじゃア」
そう言って友人は姿勢良く座り直して、ふウと短く息を吐いた。身体の前で手を組み、目を閉じる。いきなり始まるんだな、と思いながら彼を眺めていると、滅茶苦茶小さい声が彼の口から漏れ始めた。
「・・・か・・・・・は・・・も・・・」
ぶつぶつと断片的に言葉が聞こえるが何を言っているのかはよくわからない。耳を澄ますもはっきりとしないので、なにを言っているのだろう、とそば立てながら恐る恐る前のめりの姿勢をとったその時。
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中