SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第49回「守護霊」

エンタメ

公開日:2025/7/27

「ふウーーーーー!!!」
 と言って友人は物凄い勢いで息を吐いた。滅茶苦茶に驚いた私は「ぅぉ」と情けない声をあげて仰け反った。そんなことはまるで意に介さず、彼は細かく瞬きを繰り返し、私を見た。正確には私の少し後ろのあたりを、みた。
「お、おお」
 何かを捉えた様子で友人が少し笑いながら唸った。
「え、なに」
「うん」
 いや、うん、じゃわからんて。ここまで来るともうそっち系だとか、信じるとか信じないとか関係がない。みてもらっちゃったのだから、全部教えてもらわないと気が済まない。すごく気になる、良くても良くなくても絶対知りたい。おやつを目の前に、待て、と言われたワンちゃんの心持ちだった。フラットだとか、外的要因が、とか涼しい顔で言っていた私はどこへやら。
「なんか、みえるのか」
 友人は私のちょい後ろに視線をやったまま、口を開いた。
「渋ちゃん」(彼は私を渋ちゃんと呼ぶ)
「え」
 私を見て、背後をみて、彼はそれを幾度も繰り返した。生殺しだ。なにもったいぶってんだよ、ともどかしい気持ちでいっぱいだった。このままCMにでも行くんかいや、とそわそわする私に、彼ははっきりと言った。
「ちゃんといるよ、守護霊様」
「まじで!」私は喜んだ後、なんだか少し気恥ずかしくなった。
「まじまじ」
「え、良いこと、だよね?」
「良いこと」
「誰がついてくれてるの? ひいじいちゃんとか、ひいひいばあちゃんとか、そういうこと?」
「ううん」
「え、ご先祖様とかじゃないの」
「うん」
「なに」
「あのね」
「なになに」
「海賊」

 海賊!!!!

 いや海賊て。
 先祖のポジション強奪て。海賊すぎるて。
 そう思ったのだが、私はある事実にハッとする。私の母親の家系には村上の姓があるのだ。その村上とは村上水軍の村上、すなわち、日本の大海賊の「村上」である。なにを隠そう私は海賊の末裔であるのだ。しかしこの事実を彼に話したことはない。
 これはなんか信憑性があるかもしれないと、流石に思わざるを得ない。「あとね」友人は再び背後を見て、続けた。
「外国人」

 外国人!!!!
 いや外国人て。
 村上水軍のポジション強奪て。外国人すぎるて。
 そう思ってハッとする事実を探したのだが、なにも見つからなかった。
「すごく大きな方だね、豪快な方。両脇に女性連れてるよ」
 そうかそうか。もうよくわからないな。

 ただこの日の話をまとめるとざっくり、かなり良い守護霊様である、とのことだった。時折背後に向けてお礼を言ってあげた方が良い、とのことだったので、やはりしっかり刻まれてしまった私はそれ以降たまアに背後に向けて、「ありがとうございます」と言ってみたりしている。
 こういった類のものの良いも悪いもわからないし、嘘か誠かもわからない。ここまで書いておきながら、あの当時と現在とでなんの心境の変化もないので、この経験を経ての見解はない。やっぱずっと平熱。

 各々ご自由にというところでしょうか。自分の生きやすいように、こういうものと付き合っていけたら良いよね。あー、なんか無理矢理まとめに走ってる感すごいな。
 ただのエピソード披露の場となりましたが、ご愛嬌。ふウーーーーー!!!

<第50回に続く>

あわせて読みたい

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中