ドラマ&映画化で話題!堅物お父さんは“価値観をアップデート“できるのか?ハートフルマンガ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/7/31

おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!
おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!(練馬ジム/LINEマンガ)

おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(通称「おっパン」)という衝撃的なタイトルの作品は、昨年実写ドラマ化で好評を博し、2024年日本民間放送連盟賞・優秀賞受賞、著者である練馬ジム氏による原作も、国内累計閲覧数8,800万回以上(2025年7月時点)を誇るなど、大きな話題を呼んだ。そして、なんと今年の7月からは映画版が公開。おっパンの人気と盛り上がりはまだまだとどまるところを知らない。

 そもそも『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(練馬ジム/LINEマンガ)とはどういう作品なのだろうか? タイトルだけでは、なかなか内容が想像できないだろう。実はこの作品、突飛なタイトルからは想像もつかないくらい、とても誠実であたたかい、ハートフルなマンガなのだ。

 主人公は、48歳のサラリーマンの沖田誠。妻と娘、息子と4人暮らしだ。彼の目下の悩みは、息子の翔が引きこもりになり、3ヵ月も登校拒否を続けていること。顔を合わせるどころか、声も聞くことができない。そんな息子に対して、誠は一生懸命ドアの向こう側から声をかける。

 それだけ聞けば、家族想いのとてもいいお父さんだ。しかし、誠は非常に古い価値観をもっていて、口を開けば時代遅れのパワハラやセクハラまがいの発言を連発。多様性への理解もなく、差別的な発言を悪気なくする。

©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

 そのせいで、同僚からも、家族からも、疎まれがち。翔が心を閉ざしてしまった理由のひとつも、この父の態度が原因だった……ということに誠は気づいていなかった。

 原作を読んでいると、「いるよね、こういうおっさん!」といった危なっかしい発言が多く登場して、つい今まで出会ってきたおじさんたちを思い出してしまう。基本的にはコミカルな雰囲気の作品だが、だからこそ誠の発言の生々しさが浮き彫りになる。

 そんな“よくいる時代遅れのおっさん”である誠に、ある日転機が訪れる。息子の知人でありゲイであるとカミングアウトしている五十嵐大地と出会い、彼の言動に感銘を受けた誠は、自身の価値観をアップデートすることを決意するのだ。

©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

 新たな出会いと共に、今まで知らなかった世界に触れる誠。もちろん、それまで長く付き合ってきた自身の価値観がそんな簡単に覆ることはないし、どれだけ内省を繰り返しても、周りがドン引きするような失言をしてしまうこともある。

 しかし、変わろうと決めてからの誠はすごく魅力的だ。泥臭くて、決してスマートとは言えないかもしれない。でも、間違いなく以前より親しみやすく、彼の何気ない発言が少しずつ周りを笑顔にしていくようになる。変わるのは簡単じゃないけど、誰かのために変わろうとするその気持ち自体が尊いものだと、この作品を読んでいると思う。

 最初は翔からの信頼を得るために始めた価値観のアップデートだったが、視野が広がり、感性が柔らかくなった誠は、部下や娘の萌との関係の中でも様々な価値観に触れ、変化していくことになる。

©Zim Nerima/LINE Digital Frontier
©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

 男性部下のメンズブラジャーを否定せずに受け入れ、風邪を引いた娘の代わりに同人誌即売会の売り子(しかも18禁BL)までできるアラフィフの父親なんて、もうすでにけっこう最強なんじゃないかとも思う。

 価値観のアップデートが主題と聞くと、どうしても啓蒙的な堅苦しい作品を想像してしまうかもしれないが、この作品は一貫して押しつけがましい表現はせず、様々な立場の人たちがそれぞれお互いに理解を深めていく、そんなあたたかさが魅力的な作品だ。映画化を機に気になっていた人にも、ぜひおすすめしたいマンガである。

文=園田もなか

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