『左ききのエレン』外伝は「“柳さんの思想”のために、一番時間をかけた漫画」担当編集がコーヒーを吹き出したというご飯漫画とは【かっぴー インタビュー】
公開日:2025/8/2
現在アニメ化も進行中の大人気漫画『左ききのエレン』から待望のスピンオフとして誕生した『柳さん ごはんですよ ―左ききのエレン外伝―』(いずれも集英社)。本作は、孤高のクリエイティブディレクター・柳一(やなぎ・はじめ)の“食”に迫る、新感覚のグルメストーリーとなっている。
――ただ食べるだけじゃない、なぜそれを食べるのか。柳さんのストイックすぎる食思想は、きっとあなたの食事観を根底から覆すはず。本記事では、作者・かっぴー先生に制作の裏側をたっぷりとインタビュー。そこから見えてきたのは、柳さんに勝るとも劣らない“食へのこだわり”と、ファン必読の『左ききのエレン』最新情報まで。最後の一口まで、存分にご賞味あれ。
エイプリルフールから始まった?! 『柳さん ごはんですよ』誕生の舞台裏
――今回、外伝という形で柳さんを主役にされたのは、どのような想いからだったのでしょうか? 本作の着想のきっかけについて教えてください。
かっぴーさん(以下、かっぴー):もともとは、2022年のエイプリルフールにXへ投稿した1つのポストがきっかけでした。『左ききのエレン』に登場する鬼上司・柳一が孤独にグルメと向き合う新連載『柳さん、ごはんですよ!』はじまります。
みんなが嘘だと思うことを本当にやってみたいタイプなので、エイプリルフールではしゃぐと負けた気がする。
— かっぴー@大人大戦 (@nora_ito) April 1, 2022
それはそうと、
「左ききのエレン」に登場する鬼上司・柳一が孤独にグルメと向き合う新連載「柳さん、ごはんですよ!」はじまります。 pic.twitter.com/TJVQe4RQ45
……そんな冗談交じりの告知をアップしたんです。実はそれ以前から、柳さんがごはんを食べる漫画があったら面白いんじゃないかなと、ふわっとイメージしていたものがあって。それをエイプリルフールのネタとして投稿してみたら、思いのほか読者さんからの反応が良かったんですよね。「あ、もしかして本当に読みたいと思ってくれているのかも」と感じて。そのときから、いつかちゃんと描けたらいいな、と思うようになりました。


――まさかそのエイプリールネタが本格的な連載に発展するとは!
かっぴー:その後、UOMOさんから「何か連載をしませんか?」というお話をいただいて、そのときに『柳さん ごはんですよ』のアイデアを編集さんに話してみたんです。すると、なんと編集さんがコーヒーを吹き出してしまって。あんなふうに人が本当にコーヒーを吹くところを見たのは、人生で初めてでした(笑)。
――コーヒーを吹くとは漫画みたいですね。
かっぴー:本当に、漫画みたいにブーッと。その様子を見て「あ、やっぱりこのネタ、ちゃんと面白いんだな」と確信しました。そこからは自然な流れで、「じゃあ、やってみますか!」という話になったんです。
――作品の立ち上げとしては、かなりスムーズだったんですね。
かっぴー:そうですね。ただ、正直「UOMO」でやる意味はちょっとわからなかったですけど(笑)。でも、編集さんが「ファッションとか全然気にしなくて大丈夫です!」と言ってくださって。それを真に受けた結果がこの連載です。「UOMO」の懐の深さに本当に助けられましたね。
“何を食べるか”より“なぜ食べるか”柳さんを描くうえでの一番の難題とは
――本作は、いわゆる「おいしい」「まずい」といった味覚の話というより、柳さんの“食に対する思想”を描いた作品だと感じました。食そのものよりも、柳さんというキャラクターの思考や価値観を軸に物語を組み立てていくのは、やはり難しさもあったのではないでしょうか?
かっぴー:これが本当に難しくて……。おそらく、これまで描いてきた漫画の中で、一番時間をかけていると思います。それくらい、毎回めちゃくちゃ悩みました。
ただごはんを食べて、その感想を言うだけならまだ気楽なんですけど。この作品では、仰るように毎回“柳さんの思想”の部分まで描かないといけない。そこが本当に大変でした。
例えば、第1話でカップヌードルを取り上げたので、次も定番のレトルト系で行こうと考えても、肝心の“思想”が乗らないと成立しない。商品ありきでは発想が広がらないんです。そうなると、描き方の順序も毎回違ってきて、決まったやり方がない。それも難しさの1つでした。
個人的にはミスドが好きなので、「ミスドならいろいろ描けそうだな」と思ったんですけど、冷静に想像してみると、いやいや、柳さんがミスド行くわけないでしょって(笑)。
――私もそう思いながら読んでいました。
かっぴー:そうですよね。だから「やっぱり無理か」と一度は諦めかけたんですが、そこでふと“逆に”という視点が浮かんだんです。チートデイという設定にしてみたらどうだろう、と。
普段は節制している柳さんが、あえて無理して限界まではしゃぐ日があったとしたら? 柳さんなりのチートデイがあるとすれば、その日はミスドに行くかもしれない。そんなふうに考えたとき、「これなら描けるかも」とスイッチが入りました。


かっぴー:結局、毎話「何を食べるか」と「なぜそれを食べるか」から考えないといけないので、これがまあ、本当に大変でした。だから、不定期連載という形に甘えて半年くらい開いてしまった回もあって……。本当にUOMOの懐の深さ。これ太字で2回くらい入れてもらっていいですか?(笑) 普通の週刊連載だったら、絶対にできなかったアプローチだと思います。
実体験から生まれた?! 超ストイックな食思想
――柳さんの“食に対する思想”の中でも、物語の冒頭で打ち出されるのが、「食べ物には、遊んどるものと、遊んどらんものがある」という考え方です。この一言が、本作の1つの軸になっていたように感じたのですが、この思想はどのようにして生まれたのでしょうか?


かっぴー:これは、自分自身が会社員時代からずっと感じていたことかもしれません。例えば、ランチミーティングで中華に行っても、フカヒレ土鍋ごはんなんて頼めないじゃないですか? 打ち合わせでそれは、さすがに気まずいと言いますか。
あるいはカフェで、みんなが「アイスコーヒーで!」って注文しているなかで、自分ひとりだけアサイースムージーを頼むのも妙に浮いてしまう。コーヒーなら仕事モードな印象がして自然だけど、スムージーってちょっと「遊んでる」んですよね。なんで今ビタミン摂ってんだ?っていう(笑)。つまり、カフェインは仕事に必要だけど、ビタミンは美容……。だから仕事中にそれを摂るのって、どこか距離がある感じがするんです。
もちろん、誰かに注意されたわけではなく、完全に自分の中で勝手に気にしていただけなんです。でもそういう感覚がずっとあって、仕事中はなるべく真面目に見えるものを頼もうという意識が、自然と染みついていたんですよね。そうした感覚を、極端に突き詰めたキャラクターが柳さんです。彼なりの言葉にすれば、「遊んどるものと、遊んどらんものがある」。それが、1つの判断基準になるんだと思います。
――特にお気に入りの回や、逆に苦労された回があれば、教えていただけますか?
かっぴー:「天下一品」回も好きなんですが、やっぱり「マクドナルド」回ですかね。誰もが行ったことのある店って、何を選ぶかでその人の性格が出ると思うんですよ。例えば、マクドナルドやミスドで、「これを選ぶ人って、なんとなくこういうタイプだよね」みたいな、ちょっとしたイメージってあるじゃないですか。だから、「そこでそれを頼むんだ」という、その人らしさが滲み出る回は、描いていて面白かったですね。


――ネタバレにならないようにあえて伏せますが、柳さんがマクドナルドであれを選ぶとは……。読んでいてちょっと驚きました。
かっぴー:そうなんですよ。でも、あの選択はどこかストイック寄りな感じがしますよね。ただ、「これはストイックだ」「これは遊んどる」みたいな基準って、結局は何の根拠もない、ただの個人の感想なんです。そういった存在しない概念を、あたかもあるかのように真剣に語っていく。その構造自体が、この漫画の面白さだなと感じています。
――お気に入りの回として「天下一品」や「マクドナルド」を挙げていらっしゃいましたが、本作では、誰もが知るようなチェーン店に限定されている点も、読者の共感を誘う大きな魅力だと感じました。
かっぴー:基本的には、自分がもともと知っている店を描くようにしています。そのうえで、描く前には必ず実際に足を運んで、改めて空気を確かめるようにしています。ただ、選ぶのは決して自分だけが知っているようなニッチな店ではなく、誰もが一度は訪れたことのある、馴染みのある店。
僕自身、あまり熱心にグルメ漫画を読んでこなかったので細かい比較はできないのですが。知人に『美味しんぼ』に登場するお店を巡る“美味しんぼ巡り”をしている人がいて、それはそれで素敵だなと思うんです。でもこの作品は、そういう知られざる名店を紹介するタイプではありません。「へぇ、こんなお店あるんだ」ではなくて、「ああ、あそこね」「わかる、それ」と頷いてもらえるような、共通認識のある食べ物や店をあえて選ぶ。そこが、この企画のミソだった気がします。
あえて描かなかった日常。柳さんという男の孤独と魅力
――ここからは、柳一というキャラクターについて伺います。『左ききのエレン』第一部でも、昼食にダースチョコレートだけを食べるなど、今回の外伝にも通ずる柳さんのストイックな食生活が垣間見えました。こうした柳さんの食の描写は、当初から構想されていたものだったのでしょうか?
かっぴー:そうですね。『左ききのエレン』第一部の頃からずっと考えていました。本編を描いているときは、「仕事以外のシーンはなるべく描かない」と意識していて。キャラクターたちのことが好きだからこそ、「この人、普段なにしてるんだろう」「好きな食べ物、音楽は?」みたいなこともつい考えてしまう。でも、そういった部分に踏み込むと、物語の軸が少しぶれてしまう気がして、あえて描かないようにしていたんです。
だから、柳さんがどんなごはんを食べているのか、どんな生活をしているのかというイメージは、当時から頭の中にはあったけれど、それを表には出さずにいた、という感じですね。
――あえて描かずにいた部分を、今回は思い切り描けた。そのぶん、創作としての楽しさも大きかったのではないでしょうか。
かっぴー:一番嬉しかったのは、作品として成立するくらいには、“柳さん”というキャラクターがしっかり認知されていたんだな、と感じられたことです。スピンオフって、すべての漫画家にとって1つの憧れでもあると思うんですよ。自分のキャラクターが単体で作品になるって、やっぱりすごいことだなと感じました。それを「UOMO」という場で描かせてもらえたというのも、本当にありがたかったです。
また、本作は、柳さんがちょっと怖いクリエイターなんだなという輪郭さえ伝われば、『左ききのエレン』を知らない方にも十分に楽しめる内容になっていると思います。スピンオフではありつつも、柳さんというキャラクターを軸にした、1つの独立した作品として読んでもらえるように意識しました。そこまで広げて描けたことが、自分としてもすごく良かったなと思っています。
――柳さんの食生活や思想を突き詰めて描いたことで、連載中には見えていなかった彼の一面に、かっぴー先生ご自身が改めて気づくようなことはありましたか?
かっぴー:改めて思ったのは、柳さんって本当に、食事中に話さない人なんだろうなということでした。作中では部下と一緒に食事をする場面もありますので、その際の「会話あるある」みたいなネタも描けたら面白いかなと思って描き始めたんですけど、どうしても、柳さんが食事中に雑談している姿が浮かばなかったんです。
結果的に、柳さんの孤独を、こちらがじわじわと噛みしめるような結果になってしまったというか。それが少しかわいそうだなと思いました。僕自身は、食事の時間をとても大切にしているんです。例えば、家族と一緒にごはんを食べるとか、そういう時間をちゃんと確保したいタイプ。だからこそ、柳さんにはそれがないんだなと気づいたとき、少し切なくなりました。そういった背景もあって、「ロケ弁」回のように、彼の心の中を描くことで、柳さんがほんの少しでもチャーミングに見えたらいいなと思いました。


85点がいい?! かっぴー流“食の最適解”
――単行本『柳さん ごはんですよ ―左ききのエレン外伝―』では、美食家としても知られるアートディレクター・秋山具義さんとのスペシャル対談も収録されており、お二人それぞれの食に対する独自の視点がとても印象的でした。そのうえで改めてお伺いしたいのですが、かっぴー先生ご自身にとっての「食のこだわり」とは何でしょう? これは譲れない、というようなポイントがあれば教えてください。
かっぴー:これは、対談を通して改めて自己分析できた部分でもあるんですが、どうやら僕はかなり“固定派”なんですよ。気に入った店があると、ずっとそこに通って、しかも毎回、同じメニューを同じ順番で頼んでしまう。
例えば、ひつまぶしで85点の店を見つけたとしたら、もうそれで満足してしまうんですよ。90点を求めて他のお店を探して行ってみた結果、60点を引いてしまう可能性があるなら、確実に85点を選びたい。だから、自分の中で合格ラインを超えた店があれば、もう他を探さなくなってしまうんですよね。
――ある意味、一回一回の食事を大切にしているからこそ、失敗したくないという感覚があるのかもしれませんね。
かっぴー:そうそう、まさにそれなんです。失敗したくないんですよね。「これ、美味しい」と思えた時点で、もうそこに定まる。別にグルメってわけじゃないんですけど、変なこだわりがあるんですよ(笑)。
でも妻には、これがめちゃくちゃ不評で……。彼女は新しいお店に行きたいタイプなので、僕の行きつけに付き合わせすぎた結果、「もうそこには行きたくない」って言われてしまって。完全にやりすぎました。お気に入りの店が次々とNGリスト入りしていくという、悲しい展開になっています。
――私は、たとえランチで失敗しても「夜ごはんでリカバリーすればいいか」って思うタイプなので、その徹底ぶりにちょっと驚きました。
かっぴー:そのリカバリー感覚、すごくわかります。例えば、夜にいい店に行く予定がある日は、昼は適当でいいかって思えることもありますよね。
ただ、僕は基本的にそのときに本当に食べたいものをちゃんと食べたいタイプ。いわゆる予約困難店の半年後予約とか、どうしても苦手なんです。その日になって気分が乗らなかったらどうするんだろうって考えてしまう。だから僕の思想では、その日に食べたいものが食べられて、85点だったら最高! それが、自分にとっては一番価値があるんですよね。
覚悟して食べてほしい、“おかわり”じゃないスピンオフのかたち
――ずっと『左ききのエレン』シリーズを読んできた方と、これから初めて触れる方。それぞれに向けて、本作をどんなふうに楽しんでもらえたら嬉しいか。そしてこの外伝は本編の中でどんな位置づけになっていると考えていらっしゃるかお聞かせください。
かっぴー:今回はまず、ブックデザインにもかなりこだわっていて、友人のデザイナーに完全に自由にお願いしたのですが、もうめちゃくちゃかっこいい仕上がりになりました。

そして、本作の位置づけ……。これは本当に難しいですね。いわゆるスピンオフ(外伝)って、一般的には“ヒット作のおかわり”というか、その余波に乗って、もう少し売り上げをおかわりできたらいいな、という下心があることも多いと思うんです。でも、それだけだとやっぱり面白くならない。だからこそ、おかわりじゃないスピンオフってなんだろう? という問いは、本作を描くうえでずっと考えていました。
そもそも『左ききのエレン』は、誰もが知るような国民的作品ではないですし、そんな作品のスピンオフを成立させるという時点で、すでに位置づけが難しい。でも柳さんというキャラクターは、そうした作品の中で奇跡的に生まれてくれた存在で、漫画家目線で見ると僕にとってはすごく大好きな“素材”なんです。言うなれば、その“素材”を使って、前菜からデザートまできっちり組み立てたのがこの外伝。
『左ききのエレン』が“広く美味しい定食”を目指していたとすれば、こちらは“スッポンのフルコース”。クセもあるし、血のスープも出る。万人向けではないけれど、味わい尽くしたい人にはたまらない、そんな一冊になったと思います。だからこそ、ブックデザインも一筋縄ではいかないというか、「覚悟して食べてくれ」という面構えになっている。そんな気がしています。
“お受験流川”から“40代光一”まで、進化し続ける『左ききのエレン』
――ありがとうございます。最後に今後の『左ききのエレン』シリーズのご予定や、柳さん以外のキャラクターで、こういった外伝として描いてみたい構想があれば教えてください。
かっぴー:今後の『左ききのエレン』シリーズについては、まもなく続報が出るアニメ化をはじめ、しばらくはこの作品をさらに広げていくフェーズに入ると思っています。柳さんに関しては、現在「SICK」という、彼の半生を描く外伝も進行中で、おそらくあと1~2年ほどで描き切れるかなと。
他にも描きたいキャラクターはたくさんいるんですが、なかでも一番深掘りしてみたいのは流川です。主要キャラでいうと、神谷も面白いし、描こうと思えばいくらでも描けるんですけど、彼ってある意味“少年漫画の王道主人公”っぽいところがあるんですよね。そもそも『左ききのエレン』って、そういうド直球の作品ではないからこそ、僕自身が“超王道”の神谷を改めて掘り下げるとなると、どうなんだろう……という迷いがあるんです。
――主人公の光一や神谷さん、そして柳さんがクリエイティブ局であるのに対して、流川さんは営業局の人ですね。
かっぴー:『左ききのエレン』には、クリエイター寄りの登場人物が多いけれど、流川はもっと現実的な「働く大人」。主人公にもなり得る存在なんですが、立ち位置が少し異質で、だからこそ改めて描いてみたいと思うんです。
実は、僕自身ずっと考えているテーマがあって、それが「本当に“普通の会社員”をヒーローとして描くにはどうしたらいいか」ということ。流川の魅力を、漫画として、エンタメとしてしっかり描き切れたらきっと面白いだろうなと感じています。
あと、先ほど本編では、キャラクターたちのプライベートな描写はなるべく描かないようにしてきたと話しましたが、流川に関してだけは別で。第一部の時点から奥さんが登場したりして、珍しく生活が描かれているんですよね。
それはやっぱり、彼が“クリエイター”ではなく“会社員”だからこそ。仕事と家庭、その両方が切っても切れないテーマとして存在している。そのバランスの中で揺れながら働いている人物として描くことで、流川というキャラクターにしかできない物語が生まれるんじゃないかと思っています。そこが、彼の面白さの1つですね。
――そんな流川さんが、外伝として独立した物語になっていくとしたら、どんな切り口で描かれるのか、とても楽しみです。
かっぴー:もし描くとしたら、やっぱり「お受験」とかじゃないですかね。流川のパパとしての側面、それはちょっと面白そうだなって思っています。実際、僕自身もあと数年したら考えることになるテーマかもしれないし(笑)。
そういう、自分自身のライフステージとともに、描けることが増えていくキャラクターなんですよね。例えば、娘が大きくなって感じたことや悩んだこと。それが出てきたとき、流川さんも同じように年を重ねて、そういう話が描けるかもしれない。他のキャラクターでは担えない領域を、流川には任せられる気がしていて。それが、これからの楽しみでもあります。
――まさに理想的な外伝の形だと感じます。漫画ってキャラクターが年を取らないから、自分が憧れていた年上のキャラを、気づけば追い越してしまうことがありますよね。でも、『左ききのエレン』なら、かつて流川さんに憧れた人が、同じように年を重ねたとき、再び彼と同じ目線で出会える。それはきっと読者さんにとって大きな希望になると思います。
かっぴー:僕、キャラクターにしっかり歳を取らせたいんですよ。それでいうと、少し未来の構想に触れることになりますが、アニメ化のタイミングに合わせて、2025~26年版の“今の『左ききのエレン』”を描くつもりです。そうなると光一も、もう40代半ばくらいになってるんじゃないかな。
そういえば、僕は小学生の頃に『るろうに剣心』が大好きで、剣心が28~29歳って設定を見たときに「めっちゃおっさんじゃん!」と思ったんですよ。でもいま思うと、28~29歳なんて全然若いし、そりゃあ飛天御剣流も打てるなって(笑)。ただ、これがもし40代半ばくらいだったら、そもそも「どうやって戦うの?」って思いません?
だからこそ、この年齢になった今だから向き合える『左ききのエレン』を、いま改めて描こうとしています。実はもう、ネームもかなり進んでいるんですよ。僕自身、これからどんな物語になっていくのか、とても楽しみにしています。みなさんも、ぜひご期待ください。
取材・文=ちゃんめい