「死んでゆくのは大変だなぁ…」終末期がんの父の言葉に答えられなかった娘の罪悪感【著者インタビュー】
更新日:2025/8/15

25歳のとき、ステージ4のすい臓がんだった父親を亡くした漫画家の水谷緑さん。親の死というショッキングな出来事のあとに残ったのは、“ちゃんと父を看取れたのだろうか”という大きな後悔。そのあと、水谷さんが自身の後悔の気持ちを相談したのが「緩和ケアナース」でした——。『大切な人が死ぬとき ~私の後悔を緩和ケアナースに相談してみた~』(竹書房)では、水谷さんが父親を見送るまでの一部始終や、緩和ケアナースの取材で分かった死にゆく人たち、そしてその家族の心境を伝えています。当事者の体調の変化、残された家族の葛藤などが細やかに描かれ、大切な人を失った人や、今まさに家族の死が目前に迫っている人はもちろん、まだ家族の死を経験していない人にとっても心に響く一冊。大切な人が死ぬとはどういうことなのか? 著者の水谷さんに話を聞きました。
——お父さまが「死んでゆくのは大変だなぁ…」とふと口にした言葉が、とても響きました。冒頭にも登場しているセリフですが、その時はどのように感じましたか?
水谷:父が自分でも“死ぬかもしれない”と思っていることにびっくりして、言われたときはすごく戸惑いました。「やばい」と思って、なんて言い返せばいいのかわからなかったです。本当のことだから「そうだね」とも言いにくいし、「そう言わず頑張ってよ」と切り返せるほど自分も元気じゃなくて。でも、ポロッと本音が出たような感じで、感情をちゃんと出せる場があることは終末期の患者にとってはいいことだと後から知りました。
——それまでは本音を明かすことはあまりなかったのですか?
水谷:娘の前ではあまり言わないようにしていたようです。後から母に聞いたら、「なんで自分が…」「自分には定年後の生活がない」「ここで死ぬとは思わなかった」みたいな正直な感情を母にはぶつけていたようで、八つ当たりすることもあったみたいです。
——お父さまを看取ったとき、何を話していいのかわからないままだったので後悔が残り、それが本作を描くきっかけになったそうですね。今も後悔の気持ちは残っていますか?
水谷:今はちょっと違います。最初の5年くらいは後悔のほうが大きくて、後悔しすぎて自分が病気になってしまって。父はもういないのに依存してるな…と。結局、後悔って自分のエゴだから、後悔しているときは気持ちがいい。でも自分まで病気になるくらいだから、後悔は良くないと今は思います。父にしてあげられないことがあったな、と罪悪感を感じずにはいられませんが、父はそんなことを望んでいないと思うので、そこから抜け出すのは難しいのですが、今は客観的に考えられるようになりました。病室で話した時間とか、楽しかったことばかり思い出しますね。
※書籍出版当時の体験、お話をもとにインタビューを行っています。治療などに関する専門情報は、各医療機関にご確認ください。
文=吉田あき