大切な家族を亡くしたあとの挨拶は「最近どう?」で十分。終末期がんの父を亡くした漫画家が助言【著者インタビュー】
公開日:2025/8/19

25歳のとき、ステージ4のすい臓がんだった父親を亡くした漫画家の水谷緑さん。親の死というショッキングな出来事のあとに残ったのは、“ちゃんと父を看取れたのだろうか”という大きな後悔。そのあと、水谷さんが自身の後悔の気持ちを相談したのが「緩和ケアナース」でした——。『大切な人が死ぬとき ~私の後悔を緩和ケアナースに相談してみた~』(竹書房)では、水谷さんが父親を見送るまでの一部始終や、緩和ケアナースの取材で分かった死にゆく人たち、そしてその家族の心境を伝えています。当事者の体調の変化、残された家族の葛藤などが細やかに描かれ、大切な人を失った人や、今まさに家族の死が目前に迫っている人はもちろん、まだ家族の死を経験していない人にとっても心に響く一冊。大切な人が死ぬとはどういうことなのか? 著者の水谷さんに話を聞きました。
——本書に登場する緩和ケアのナースさんは、自身の父親が亡くなったとき、「どうしようもなく怒りが湧いた」と書かれていました。「くやしさ」や「怒り」も「悲しみ」の一つの表現だとか。大切な家族を亡くした人が周りにいたら、どんな声がけをするのがいいと思いますか?
水谷:「元気出して」と言われたら余計なお世話だと思われるかもしれないし、「なんか元気ないでしょ」と声をかけるのも難しそうだし。「最近どう?」くらいで十分な気がします。かなり気を使って出ている言葉なのかなと。
間柄によりますが、私は友達が突然チーズケーキを送ってくれて。「悲しい時でも美味しいもの食べるのは大事だよね」という言葉が嬉しかったんです。その友達も両親を亡くしているのを知っていたからかもしれませんが、特別扱いせず、労わってくれる感じがいいのかな。気にしてくれていることがわかると気分転換になるので、そのきっかけをもらうだけでも十分力になります。
——水谷さんは、研修医を描いたコミック『あたふた研修医やってます』(KADOKAWA)でコミックエッセイプチ大賞(メディアファクトリー主催)を受賞し、デビューされています。それから現在に至るまで、医療をテーマに書き続ける理由とは?
水谷:最初は、研修医をしていた弟の話が面白かったので、それを描いてコミックエッセイのコンクールに応募したのがきっかけでした。父の入院で医療への興味が増したし、身近に医療関係者がいたのも大きいと思います。医療は人の生死を扱う人間ドラマでもあるし、体の構造や病気の治し方などに興味が尽きない。今は美容医療の漫画を描きたいと思い、美容外科医や形成外科のお医者さんに取材をしているところです。
——竹書房の月刊誌(毎月30日発売)「本当にあった愉快な話」では、『暴力病院』の連載が始まっています。見どころを教えていただけますか?
水谷:精神科病院での暴力的、支配的な面を描いています。「暴力を行う医療者はとんでもない」とか、正義感が強い医療者ほどそういう批判をするし、テレビでもそうやって取り上げられますけど、実際に会うといい人だったりして。もちろん、暴力はいけないことですが、問題や状況は多面的で重層的です。告発とかやり玉にあげるとかではなく、本当に見てきたリアルを描いているので、ちょっと生々しいかもしれません。
※書籍出版当時の体験、お話をもとにインタビューを行っています。治療などに関する専門情報は、各医療機関にご確認ください。
文=吉田あき