「アイデアは森のような物である」『ぷよぷよ』を生んだゲームクリエイターの指南本ほか、本読みの達人たちが教える選りすぐりの新刊本

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/9/1

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年8月号からの転載です。

本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。

イラスト=千野エー

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[読得指数]★★★★★ 
この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。

渡辺祐真
わたなべ・すけざね●1992年生まれ、東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系You
Tuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。著書に『物語のカギ』がある。

『ゲーム作家の全思考』
『ゲーム作家の全思考』(米光一成/大和書房)1870円(税込)

アイデアは森のような物である
現在僕は作家として活動しているが、元はゲームクリエイターだった。近いキャリアを歩む先達のお一人が、『ぷよぷよ』や『はぁって言うゲーム』で知られる米光一成氏だ。憧れている方だが、本書を読み終えたとき、こんな本が書きたかった!と地団駄を踏んだ。しかしそれ以上に、カードゲームを作ろう!と、早速ネタ出しを始めていた。そんな自分に気がついて更に悔しくなった。最良の創作指南書は、理路整然と創作術を説くのではなく、読者に作りたいと思わせるものだからだ。
本書には、著者ならではの創作の秘密が満載だ。だがそれは鮮やかなものではなく、むしろ泥臭いし散らかっている。でもそれが創作のリアルだ。著者はそうしたアイデア環境を指して、アイデアは森のようだと表現する。たくさん木を植える。どれが育つか分からない。でも植える。それを続けるしかないと実感できれば、本書を読んだかいがある。
指南書/創作術

何かを創ってしまう度★★★★★

『行為する意識 エナクティヴィズム入門』
『行為する意識 エナクティヴィズム入門』(吉田正俊、田口 茂/青土社)3300円(税込)

世界を認識するのか? 認識が世界を作るのか?
子供の頃、自分が見ていないときに世界は存在していないのではないかと本気で疑っていた。さすがにそんなことは思わなくなったが、今でも自分の認識している世界はどれほど客観的なのかは疑問だ。
本書によれば、世界と認識の関係についての研究は徐々に進歩しているという。まず、客観的な世界が存在し、それを我々が純粋に認識していると考えられた。次なる説は逆に、認識している我々の能力に重きを置いた。そして新たに、認識と世界が相互に影響を与え合っているという考え方が登場してきた。我々が世界を認識する際には、全く客観的な認識は不可能で、視覚などが勝手に補ったり、予測したりしている(それを利用したのが錯視やパラパラ漫画だ)。同時にそうした能力は、ある程度は世界に規定され、世界の動きに影響を受ける。これをエナクティヴ・アプローチと呼ぶ。本書はこの説を、哲学と科学の両面から解き明かす。
心理/脳科学

認識の曖昧ぶりにびっくり度★★★★★

本間 悠
ほんま・はるか●1979年生まれ、佐賀市在住。書店店長。明林堂書店南佐賀店やうなぎBOOKSで勤務し、現在は佐賀之書店の店長を務める。バラエティ書店員として書評執筆やラジオパーソナリティなどマルチに活躍の幅を広げている。

『スノードームの捨てかた』
『スノードームの捨てかた』(くどうれいん/講談社) 1705円(税込)

人気の歌人の初小説作品集。流石の表現力に脱帽!
歌人でありエッセイストとしても活躍する作家・くどうれいんさんの最新刊は、全六篇からなる初の小説集だ。
表題作『スノードームの捨てかた』は、学生時代からの友人である30歳の女性三人の一夜を描く。既に結婚して子供がいる美容師のさらさと映像制作会社で働く絵美は、一年間付き合った恋人に婚約破棄されたという看護師の怜香からの連絡で集まることに。仕事、結婚……ライフスタイルが変化してゆく中で三人三様の価値観は時にすれ違い衝突も起こすが、20代を共に過ごしてきた三人の関係性が愛おしい。
作者の、瞬間を捕まえて言葉に落とし込む表現力が凄まじい。今風にいうのであれば、「エモい」としか言いようがない場面の連続が、一つの物語になっているように感じた。読み心地の良さに浸っているところですっと溶けるように幕が引かれる、そのタイミングも絶妙。読後感の“堪らなさ”を是非体感してほしい!
文芸/小説

穴が掘りたくなる度★★★★★

『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか 知られざる戦後書店抗争史』
『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか 知られざる戦後書店抗争史』(飯田一史/平凡社新書) 1320円(税込)

「本屋が減っている」その“本当の理由”とは。
ここ数年「本屋の減少」は話題に上り続けているが、その原因とされているものの正体を、本当に知っていると言えるだろうか。
本書は著者が集めたいくつものデータから、書店が儲からないと言われる仕組みや業界の構造上の問題点を詳細に解説する。書店員の私も初めて知るような話もあり、私たちが思い込んでいる原因と、この本で問題視されていることに乖離を感じる。本好き・本屋好きなら知っておいても損はないと思うし、書店の品揃えや客注対応に疑問を感じたことのある読者ならば、その答えが得られるだろう。
書店勤務を始めて十年。最初こそ独特過ぎる商習慣に驚かされ、書店運営はほとんどクソゲーだと感じることすらあったが、やがて慣れた。こんなものだと諦め、出来ることを模索してきた。この仕事を愛している以上続ける他ないのだが、本書が改革の一歩となることを願ってやまない。
新書/教養

本屋好きには知ってほしい度★★★★★

前田裕太
まえだ・ゆうた●1992年生まれ、神奈川県出身。芸人。高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。数々のバラエティ番組に出演し活躍。著書に『自意識のラストダンス』がある。

『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』
『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』(戸部田 誠/集英社)1980円(税込)

大手企業でも攻めることをやめない情熱的ビジネス書
今や大ヒット作品を世にいくつも出しているマンガメディアである『少年ジャンプ+』。そのヒットの裏側で、集英社という大手の出版社、そして歴史のあるマンガ週刊誌が、外部との連携や新しい試みに積極的である姿勢があったということを知り心打たれた。業界で圧倒的に著名な媒体が最も新しいことにチャレンジしていることは、別のジャンルの仕事をしている人間にとっても大きな刺激になるだろう。
需要があるところに攻めていくのが正攻法とされているが「面白い作品を作る」という一点に力を入れ、全員が同じ方向を向けば需要を獲得して好循環のサイクルが生まれるということは、きっと多くの人の希望になるはずである。
読めば仕事への情熱が猛ること間違いなし。私も今の仕事に対してのモチベーションが上がり、読んで良かったと思う作品であった。
ビジネス書/エンタメ

情熱的に仕事に向かえる度★★★★★

『鳥類学者の半分は、鳥類学ではできてない』
『鳥類学者の半分は、鳥類学ではできてない』(川上和人/新潮社)1870円(税込)

学びにもなる鳥類学面白エッセイ
私は今まで効率史上主義で、目的に対して直接アプローチをかけられる行動を是として生きてきた。このエッセイの著者である鳥類学者の川上先生のスタンスはその逆。好きだからやっていることに後から目的や意義をつけて論文にしてしまう達人である。本書の中でも、著者は鳥の骨が好きで、小笠原諸島で沢山の骨を集めてサンプル収集し、分析をして後から研究目的を考える。その骨を集めた行為の意義を後付けしているのだ。また、冒頭で、本来の目的とは違う結果を生む現象「こんにゃくドリフト」について語られている。今やダイエット食品としても有名なこんにゃくだが、そもそもは美味しく食べられるようにさまざまな工夫した結果、ダイエット食品として世に広がっていったのだそう。目的を定めて、それに対して明確な努力をしてきた身からすると、本書の内容は刺激的で大変面白かった。分かりやすく、楽しく読めるお気に入りの1冊。
エッセイ/動物学

笑えて学問も学べる度★★★★★

村井理子
むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。

『母の旅立ち』
『母の旅立ち』(尾崎英子/CEメディアハウス)1760円(税込)

母を見送る四姉妹の団結
著者の母は驚くほど破天荒な人だった。末期癌を宣告されても無治療を選び、娘である四姉妹を唖然とさせる。大きな借金を作ったり、新興宗教にのめり込んだり、家族を巻き込み波瀾万丈な生涯を送ってきた。母に翻弄されてばかりの四姉妹だったが、母のピンチを機に一致団結、在宅による母の看取りを決意する。看取り専門医の次女・ようこがイニシアチブを取り、母の最期の日々が粛々と流れていく。著者である四女・えいこの語りにより、母の破天荒な人生の秘密が見え隠れしはじめたあたりで、読者は気づくだろう。母には母の事情、彼女なりの生き方、苦難を乗り越えたサバイバル法があったのだと。「家族に一人はいるよね、こんな人……」と言うにはあまりにも破天荒な母だが、しかし「終わりよければすべてよし」と著者に言わしめるあたり、あっぱれな人生だっただろう。看取り専門医である次女・ようこによる看取りのアドバイスも素晴らしい。
ノンフィクション/エッセイ

あっぱれな人生度★★★★★

『ペットを愛した人たちがペットロスについて語ったこと』
『ペットを愛した人たちがペットロスについて語ったこと』(サラ・ベイダー:著、佐藤弥生、茂木靖枝:訳/フィルムアート社)2200円(税込)

なにが辛いって本当に辛いのがペットロス
ペットを飼ったことがないという人なんて滅多にいないだろうと感じるほどの、大ペットブームである。私自身も大の犬好きで、子どもの頃から犬と暮らし、大人になってからも犬と暮らし、中年になっても相変わらず犬が好きで、今も大きな犬一匹と暮らしている。しかし実は、一年前に心から愛していたハリーという名の犬を癌で失っている。その悲しみは筆舌に尽くしがたく、今でも心に大きな犬型の穴が空いている。ペットロスがこんなにも悲惨だとは思っていなかった。この苦しみは、古今東西の小説家、詩人、芸術家、音楽家、政治家、思想家、女優、モデル……といった、多くの人たちも抱えていたようで、彼らのペットに対する大いなる愛情と喪失が綴られた文章と、美しい写真が数多く掲載された一冊だ。あたりまえだが、小説家が残した文章は巧いだけに心を打たれる。泣きっぱなしの一冊なので、電車内で読むのはおすすめしない。
文芸/ノンフィクション

とにかく泣ける度★★★★★

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