『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』をレビュー! 戦時中の日本を舞台に命の尊さを描く感動作。彰の本当の想いとは?
公開日:2025/8/7

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(マツセダイチ:漫画、汐見夏衛:原作/KADOKAWA)は、「とにかく泣ける」とSNSを中心に口コミが広がり、累計発行部数150万部を突破した同名小説のコミカライズ版。福原遥と水上恒司がダブル主演を務めた実写化映画も評判となり、福山雅治による主題歌とともに多くの観客の涙を誘った。
主人公・百合は、家庭にも学校にも居場所を感じられず、日々イライラを募らせながら過ごしていた中学2年生。ある日、母親と激しく口論した百合はとっさに家を飛び出し、近所の防空壕跡に辿りつく。翌朝そこで目を覚ますと、なぜか周囲の風景はがらりと変わっていた。なんとそこは70年以上も前、戦時中の日本だったのだ。
戸惑う百合の前に偶然現れたのは、彰という青年だった。まっすぐで誠実な彰の人柄に、しだいに百合は心を開き、強く惹かれていく。しかし、彰には過酷な運命が待ち受けていた。彼は特攻隊員であり、ほどなくして命を懸けて出撃することが決まっていたのだ。迫りくる別れに胸を痛めながらも、彼の生き方を尊重しようと決意する百合。そして現代に戻った彼女は、思いがけない形で彰の本当の想いと向き合うことになるのだが――。
本作の見どころは、現代と戦時中という2つの時代を通して描かれる、主人公・百合の心の成長と価値観の変化にある。戦時中の人々は、平和な時代を生きる百合と違い、自由な選択肢は持っていない。けれど、誰もが過酷な時代を何とか生き抜こうとして、他者を思いやる心や命の尊さに深く根ざした生き方をしていた。彼らの姿勢は、不平不満ばかりを抱えて生きていた百合にとって大きな衝撃であり、同時にかけがえのない学びとなったのである。
物語の終盤で明かされる彰の本当の想いは、時を経ても変わらない愛情と希望の証として、百合の胸に深く刻まれる。戦争の悲惨さを伝えるだけでなく、人が誰かを思い、誰かのために生きることの尊さを改めて実感させてくれる作品だ。