虚無僧姿で来たお見合い相手の正体は同僚?仮面をかぶるから通じ合うまっすぐな気持ち【書評】

マンガ

公開日:2025/8/24

お見合いにすごいコミュ症が来た』(矢野としたか/KADOKAWA)は、婚活に疲れた中年サラリーマンが、コミュ症で恋愛に臆病すぎるあまり虚無僧姿で現れる年下OLと心を通わせていくラブコメディである。

 40歳・独身のサラリーマン・伊丹は、結婚相談所に登録して婚活に励むも、うまくいかず心が折れかけていた。そんな彼の前に現れたのは、顔をすっぽりと笠で隠した「虚無僧スタイル」の謎の女性・野田さん。奇抜な出で立ちに驚かされるが、その正体は伊丹の部下・園田さんだった。

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 普段、会社ではツンとした態度の園田が、「野田さん」という虚無僧仮面をかぶることで、はじめて自分の想いを素直に伝えられるようになっていく。

 顔を隠すという行為は、本来なら心を閉ざすものであるはずだ。しかしこの作品では、顔を隠すことでむしろ“素”の自分をさらけ出している。正体を知らないままの伊丹もまた、奇抜な見た目に戸惑いつつも、「野田さん(=園田)」のまっすぐな言葉に、次第に惹かれていく。

 特に印象的なのは、最新3巻のエピソードだ。かつて伊丹を断った婚活相手の女性が再登場し、「まだ相手が決まっていないなら、私とどうですか?」と提案する。彼女は伊丹を断った後に他の相手に断られ続け、お見合いに苦戦していたという。特に不満があったわけではなく、今では後悔していると語る。しかしその姿は、伊丹に好意があるというより、やや“妥協”のようにも映る。

 その言葉に、虚無僧姿の園田は「勝手なことばかり言わないでください!!」と、感情をむき出しにして怒る。そんな園田の姿を見て、伊丹は「見た目は変わってるけど、他人のために怒れる、すごくいい人なんです」と語る。

 顔が見えなくても、内面はまっすぐに伝わる。顔が見えないからこそ余計な緊張や遠慮を手放し、本音でぶつかることができるのかもしれないとさえ感じさせる本作。ツンとした態度しかとれなかった園田が、虚無僧の仮面を通じてまっすぐな言葉を投げかけられるようになり、そのひとつひとつが伊丹の心に静かに染み渡っていく。

『お見合いにすごいコミュ症が来た』は、奇抜な設定ながらも本質的な優しさと愛おしさが詰まった物語だ。すべてをさらけ出さなくても、人はつながることができる。言葉にするのが苦手でも、まっすぐな気持ちはきっと届く。そんな“顔の見えない純愛”の尊さを、そっと教えてくれる一作だ。

文=ネゴト / すずかん

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