お腹がすくのは生きている証。限界独身女子が取り戻す「食べたい」という小さな一歩【書評】

マンガ

公開日:2025/8/27

限界独身女子(26)ごはん』(的場りょう/KADOKAWA)は、タイトル通り心身ともに疲れ果てた26歳の独身女性を描いた物語。忘れかけていた「食べること」と向き合うことで、少しずつ前に進んでいく姿を描く。仕事や人間関係、日々の生活にすり減らされているすべての人に、静かに寄り添い、背中をそっと押してくれる作品である。

 主人公は独身女子・柊美夜子、26歳。半年前、仕事で限界を迎え、心身ともに限界寸前の状態で生きている。だが、どんなに気持ちが落ち込んでいても「お腹は空く」という事実だけは変わらない。美味しいという感覚すら忘れていた柊は、コンビニ飯やカップラーメンといった食事に頼る日々を送っていた。

advertisement

 とりあえず食べられて、自分の燃料になれば何でもいい。この感覚に共感できる読者も多いのではないだろうか。忙しい日々の中では、どうしても食事まで気が回らなくなってしまうもの。それでも今の自分が欲しているものを知り、口にすることこそ、自分自身をも動かす力になっていくのだろう。柊も飲んでみたいジュースを飲んでみたり、コンビニ飯にアレンジを加えてみたりと、小さな一歩から自分の「これが食べたい」を叶えていく。小さな工夫を繰り返すことで、自分をいたわる力が少しずつ戻っていく。

 この作品の魅力は、柊が急に元気になったり、何か劇的に変わったりするわけではないところにある。何もできなかった1日や変われない自分に自責の念を抱きながら、それでもまた明日を迎える——その繰り返しが、痛いほどリアルだ。柊のように真面目で責任感が強い人ほど、社会や他人の期待に応えようとして自分を追い詰めてしまう。柊が少しずつ自分を受け入れ進んでいく姿は、読む人の心に優しく届くのではないだろうか。

 巻を追うごとに、外に出かけたり、外食を楽しんだりと、ほんの少しの変化を積み重ねていく柊。食べることから自分を取り戻すこの物語は、肩の力を抜いて読めて、それでいて深く心に沁みる。柊の小さな一歩を、どうかあなたの明日の活力に変えてほしい。

文=ネゴト / fumi

あわせて読みたい