「おかあさん」としての幸せな日々。そこへ乳がんが発覚して…家族の尊い日々を素直な言葉でつづる話題の漫画【書評】
公開日:2025/8/24

苦しみや悲しみは、私たちが生きていくなかで決して避けることのできないものだ。しかし、それらを大切な誰かと分け合うことができれば、その重みは不思議と軽くなることがある。感情を共有できる相手がいるというだけで、人生はより豊かで温かいものになるだろう。
『おかあさんの旅路 乳がんになっても、未来へつなげたい…おかあさんの記録』(なりたりえ/KADOKAWA)は、家族と過ごす時間の大切さや尊さについて、母親である著者の視点から描いたコミックエッセイだ。
登場するのは、著者とその夫、そして元気いっぱいの娘ふたり。作中には、無邪気な子どもたちとの笑いに満ちたやりとりや、なにげない会話のなかににじむ夫婦の思いやりなど、読者の心をふっとゆるめるようなやさしいエピソードが満載だ。
美味しいものを食べさせたいと思いチャーハンを作ったら、張り切りすぎてパラパラにしすぎてしまったこと。子ども用のカメラをプレゼントしたら、喜んで大好きな母ばかりを写す娘たち。なにげなく「ママー。ゆめかなってるぅ~?」と聞いてきた娘に、「かなってる!」と答えた日。いつも笑顔で見守ってくれる夫の存在。
慌ただしく過ぎていく毎日のなかで見落としがちな、日常に潜む小さな幸せの数々。特別な出来事があるわけではない。けれど、だからこそ、描かれる一つひとつの瞬間に大切な相手と寄り添って生きることの豊かさが感じられる。
描かれるのは楽しい時間や幸せな瞬間だけではない。突然の乳がん発覚、そして闘病生活。それらにまつわる苦悩や葛藤など、著者が直面した苦しい時間についても丁寧に掘り下げられている点もみどころである。
病気と向き合う不安や、母として、妻として、家族とどう向き合っていくかという切実な思い。それらと真摯に向き合いながら、苦しみのなかにも幸せを見つけ、胸を張って前に進んでいく著者の姿が読者の胸にやさしく迫る。
大切な人との関係を改めて見つめ直したくなるような、不思議なパワーを秘めた作品である。