少し冷めた男子高校生と、周りとうまく交われない女子高校生。強豪ではない吹奏楽部に入ったふたりの姿に共感が止まらない青春譚『あめとうみ』【書評】
PR 公開日:2025/9/4

「高校生活って、めんどくさい」。そうつぶやきたくなる日々を、誰もが一度は過ごしたことがあるはずだ。悩みは尽きないし、頑張る意味を見失いかける瞬間もある。けれども、その「めんどくさいこと」に向き合った一歩が、振り返れば青春をきらめかせる。悩みばかりの日々を駆け抜けた先に、見たことのない景色が待っている。
コミック『あめとうみ』(ヤマガタアツカ/集英社)を読み始めると、全力で駆け抜けたあの日々を思い出さずにはいられない。本作は強豪ではない吹奏楽部を舞台に、そんな葛藤と成長の過程をみずみずしく描き出した青春ストーリー。日常の「ちょっとめんどくさいこと」と向き合っていくボーイミーツガールだ。今青春真っ只中の人も、とっくに青春と呼ばれる時期が過ぎてしまった人も、本作には何度も何度も共感させられるに違いない。静かに、しかし確かに心を揺さぶられる物語には、青春の痛みと輝きが息づいている。
主人公は音坂逢芽(おとさかあめ)。中学から吹奏楽部でトロンボーンを担当し、高校でも吹奏楽部に入部した1年生男子だ。入学して1週間が経ったある日、ふと廊下に目を向けると無断欠席を続けていた同じ中学出身のクラスメイトの女子・空咲宇海(からさきうみ)の姿があった。ふたりは中学で同じ部活で面識はあるが、宇海はその頃から不登校気味だったためにほとんど話したことはない。高校に入ってどうにか登校できるようになった宇海だが、愛想笑いばかりを浮かべていつも下ばかり向いている。そんな宇海のことが気がかりな逢芽は彼女に声をかけて……。
「ボーイミーツガール」というと、恋愛展開を思い浮かべてしまうが、今のところ、ふたりの間にそんな感情はない。「なんとなく心配」「なんとなく気になる」という、ただそれだけ。それでもふたりは、自信が持てない時や、悩んだ時にお互いに良い影響を与え合っていく。ふたりの友情を見ていると胸がいっぱいになるのは私だけではないはずだ。
たとえば、逢芽は冷めた高校生だ。「めんどくさいこと 好きじゃないんですよね オレ」——逢芽がそんなことを口にするようになった理由は、中学の吹奏楽部での経験が影響しているらしい。吹奏楽部の強豪校だった中学から、強豪ではない高校に進んだのも、そこに原因があるのかもしれない。一方で、宇海は強く「変わりたい」と思っている。中学では「楽だから」という理由で、自分の殻に閉じこもり、学校に通えずにいた。宇海は「このままじゃいけないと思っている」と逢芽に告げ、実際に行動していく。宇海は高校でも吹奏楽部に入部することに決め、逢芽とはクラスメイト兼部活仲間になる。間近で宇海の懸命な姿を目にすることになった逢芽は次第に変わり始める。嫌いなはずだった「めんどくさいこと」ととことん向き合うようになるのだ。
別にいいじゃん弾けなくても やろうと思った事が大事だろ
正直 今 うちの吹部はしんどさが無さすぎてちょっと悩んでる。“楽しいことだけ考えられそう”って思って入ったんだ。でも“楽しいだけ”ってもしかしてつまんないのかな?って思って…
今日すごく楽しかったでしょ どこにいたってその気持ちにウソつかなくていいんじゃないかな
皆で頑張るのってなんか…すごく…なんていうか“活きてる”ってかんじするんですよね…
私がこのコミックに惹かれたのは、そんな台詞のひとつひとつにある。それらは、自分という存在に悩み、もがき続けている人たちを救う言葉。高校生たちが変化していくことと同じように、私たちもその言葉に前を向く勇気をもらえるのだ。
悩みばかりで「めんどくさい」と思う日々も、その一歩一歩が、青春を照らしていく。何だか心が洗われたような気分になった。私も懸命に何かに取り組みたい。挑戦したい。青春の真っ只中だろうと、青春が終わっていようと関係ない。本作のページを閉じたとき、きっとあなたも前を向いて動き出す活力をもらっているだろう。
文=アサトーミナミ
