黒木華主演ドラマから6年!コミック最終巻を発売した『凪のお暇』が教えてくれるお暇の効用【書評】
公開日:2025/9/7

『凪のお暇』(コナリミサト/秋田書店)は、仕事も人間関係も「ちゃんと」こなしてきた主人公・大島凪が、ある日すべてを手放し、人生をリセットするところから始まる物語だ。ドラマ化もされ、多くの共感と反響を呼んだ作品でもある。そして物語は、最新刊・第12巻でついに感動の完結を迎えた。
節約が趣味で、「空気を読んでこ」が口癖だった凪。周囲に合わせ続け、モラハラ気味の彼氏・慎二に傷つけられながらも言い返せず、ついには過呼吸で倒れてしまう。そこから凪は仕事を辞め、彼氏とも一方的に距離を置き、ひとりきりで「お暇」生活を始める。東京のはずれにあるぼろアパートでの新しい暮らしには派手さこそないが、ひとつひとつの時間の中で、彼女は少しずつ“自分”を取り戻していく。
読んでいるうちに、「空気を読んで」生きてきた凪の姿にどこか自分を重ねてしまう読者はきっと少なくないだろう。だからこそ安定はしているけれど息苦しさのある日々から一歩踏み出し、凪が「自分らしい暮らし」を始める様子に読者自身もワクワクし、心を動かされていくのかもしれない。
節約レシピに工夫を凝らし、近所のおばちゃんや元スナックのママとのおしゃべりに救われながら、「好きなものを好きって言える暮らし」を、凪は少しずつ積み重ねていく。その姿はどこか肩の力が抜けていて、読んでいるこちらの心もほぐしてくれる。
華やかなキャリアや理想の恋人、ステータスで彩られた生活ではなく、誰かにとってはつまらなく見えるような「平凡な日常」の中にも、自分だけのささやかな幸せがある。「わたしにとっての本当の豊かさ」とは何か――そんな問いを、ふと立ち止まって考えさせてくれる物語だ。
忙しさに追われ、自分の声を聞けなくなっているすべての人へ。ちょっと立ち止まって「お暇」をとりたくなったときに、ぜひ手にとってほしい。優しく背中を押してくれる、人生リセット・コメディである。