冴えない兄と、兄にかっこよくいてほしい弟。ふたごだからすれ違う不器用すぎる青春【書評】

マンガ

公開日:2025/9/7

 ふたごという関係は、他人から見ればそっくりな二人に映るかもしれない。だが、当事者にとっては、似ているがゆえに比べられ、すれ違い、葛藤を抱える“特別な絆”でもある。『されどふたご』(西公平/KADOKAWA)は、そんなふたごの繊細な心の揺れを、ユーモラスな日常とともに丁寧に描いた青春物語だ。

 本作の主人公は、明るく社交的な弟・空と、地味で目立たない兄・大地。かつては兄のほうが人気者だったが、成長とともに立場が逆転。今では空も、「冴えない兄」に苛立ちを覚えるように。だが、その気持ちは単なる反発ではない。「兄にはもっとちやほやされてほしい」「昔のようにかっこよくいてほしい」。憧れと尊敬がこじれて生まれた、複雑な感情を抱える空。

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 一方で、空の気持ちにまったく気づかない兄・大地は、「弟に嫌われているのかもしれない」と悩む。互いを大切に思っているのに、どうしてもうまく伝わらない。この「言葉にならない感情」のすれ違いこそが、本作の核心である。

 兄弟や姉妹がいる人なら誰しも、「大切に思っているのに、うまく伝えられない」といった経験があるはずだ。『されどふたご』は、ふたごというユニークな関係を通して、そうした人間関係の普遍的な不器用さや愛しさに正面から向き合っている。そんなふたごの姿に、自分自身を重ねてしまう読者もきっと少なくないだろう。

 印象的なのは、弟・空が兄を応援しようと必死になる場面だ。空回りする姿はコミカルに描かれているものの、その根底には兄へのまっすぐな思いがあり、読者の胸を打つ。特に、クラスメイトの倉橋さんが何気なく大地を褒めたときに、自分のことのように喜ぶ空の姿は、なんとも微笑ましい。

 似ていながらも、決して同じではない。ふたごの関係を通して、人と人との距離の取り方や、想いを伝える勇気の大切さに気づかされる。今、誰かとの関係に悩んでいるすべての人に届けたい。優しくて、愛おしい青春ストーリーである。

文=ネゴト / すずかん

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