動物大好き 令和ロマン・松井ケムリ、旭山動物園の元園長・小菅正夫の“死生観”に感動「動物の生態は人間にも通用するんだな」 チケット即完イベントレポート

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公開日:2025/8/31

現在2歳の子ゾウ「タオ」の出産秘話

 2023年8月、北海道・円山動物園で生まれたアジアゾウの赤ちゃん「タオ」は、国内初の「準間接飼育」による出産だった。動物と飼育員が柵越しや壁越しに接触し、動物のストレス軽減と飼育員の安全確保を両立させる飼育方法。ゾウによる人身事故を起こさないという考えから小菅さんが取り入れた方法だ。

 多くの動物園ではコンクリートが使われているゾウ舎の床を「砂」に変えたのも小菅さんの発案だった。「コンクリートはゾウの足に悪いし、深さ2メートルくらい砂を敷いたから、おしっこをしたらそのまま砂の中で分解される。日本の動物園内の砂の上でゾウが出産したのは初めてでした。お母さんゾウのパールがタオを産んだ後に何をしたかというと、足でタオに砂をかけた。そうしたらタオの体から羊水のヌメヌメが取れたんだよ。その後、タオは砂のくぼみに体を引っかけ、誕生から10分後には立ち上がっていた」。

 これがコンクリートの床だと、お母さんゾウが赤ちゃんを起こそうとして足を出した時、羊水で床が滑って赤ちゃんゾウがポーンと飛んでしまい、檻や壁にぶつかってしまう。そんな過去の分娩シーンを映像で見ていた小菅さんは危険を感じ、赤ちゃんゾウが蹴られた時の用意をしていたが、いざ出産を迎えたら「案ずるより産むが易し」。砂の床のおかげで心配するような事態は起こらなかったという。

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 小菅さんは「ほかのメスゾウがみんなパールの分娩を見ていた」ことにも驚いたそうだ。「若いゾウが出産する時の参考になるだろうと思って、未経産のメスゾウを隣にいさせた。じーっと見ていたから、ゾウ同士でいろんな会話をしていたと思う。ゾウの会話は低周波だから、俺たちには聞こえないけど」とのこと。ケムリさんが感心しながら「その経験を自分で生かせるほどゾウは記憶力がいいってことなんですね」と語りかけると、小菅さんが大きく頷きながら次のように話した。

「子が生まれたら砂をかけるなんて本能ではないからね。パールも、自分が生まれたミャンマーでほかのメスゾウの出産を見ていたはず。だから初産でも見事に成功している。動物はすごいんだよ。人は教わらないとできないけど、動物は教わらなくても自ら学んで実行できる。見て覚えるから集中力もすごいんだ」と小菅さん。子孫を残すために生きる動物たちの賢さが伝わるエピソードに、感心する声が会場にも響きわたっていた。

小菅さんが動物から学んだ“死に様”とは

 ケムリさんが『聴診器からきこえる 動物と老いとケアのはなし』を読んで驚いたのは、小菅さんがもし自分が死に向かう時があったら「延命治療をしてほしくない」と語る内容だったという。この発言に対して小菅さんは「俺たちだって動物だから」と話し、動物から学んだ死生観について次のように語った。

「俺みたいな獣医って動物から嫌われているんだよ。治療で麻酔かけたりするから、痛いことをする人だと思われている。だから、動物が俺の顔を見て威嚇してくるうちは死なないけど、俺を拒否しなくなったら生きる意思を失っている証拠。以前、治療していたトラもそうだった。ある日治療に入ったら、息はしているけど威嚇することがなく、そっとお尻をポンポンと叩いてもまったく反応しない。自分の死期を悟っていて、あとは自然に任せる覚悟をしていたんだろうね。そうなったら治療をやめているの。しつこく治療するのは動物にとってはいいことじゃないような気がして」

 この話を聞いたケムリさんは感動した様子で、「本に書かれた動物の生態は人間にも通用することがたくさんありますよね。ぜひみなさんも読んでみてください」とアピールしていた。

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