夜の街を彷徨う不眠少年と、そこで出会った美少女吸血鬼の恋の行方は? あなたの夜更かしがさらに捗るボーイミーツガール『よふかしのうた』【書評】
公開日:2025/9/30

「今日に満足できるまで、夜ふかししてみろよ。少年」
不眠の少年と、暇を持て余した美少女吸血鬼が深夜に出会う真夜中のボーイミーツガール『よふかしのうた』(コトヤマ/小学館)は、第68回小学館漫画賞の少年向け部門受賞、全20巻で累計570万部を突破した人気コミックである。
さらに2025年夏にファン待望のテレビアニメ第2期が放送され、また本編完結から1年半後を描いた新作ストーリー『よふかしのうた -楽園編-』が『週刊少年サンデー』誌上で短期連載し、本編完結後も大きな盛り上がりを見せている。
本稿ではあらためて原作コミックの序盤部分を紹介するので、まだこの物語に触れていない人はぜひ手にとってもらいたい。
少年が吸血鬼に恋をするまでの物語

14歳の夜守コウは不登校かつ不眠の日々を過ごしていた。ある夜、彼の前に吸血鬼・七草ナズナが現れる。コウとナズナは街を彷徨い、夜遊びを楽しみ、家でゲームをする友人になっていく。
ナズナはコウの血を吸うようになる。ただ、コウはいわゆる吸血鬼(の眷属)にはなれなかった。実は眷属になるには「吸血鬼に恋をする」必要があるからだ。

恋愛に興味がなかったコウはナズナを気に入っているし、ふたりで夜更かしする時間も楽しい。何より、夜に魅了されていた少年は吸血鬼になりたいと思った。かくして、コウはナズナに恋をして吸血鬼になることにした。だが「相手を好きになりたい」と頭で考えていてもどうしていいのか分からない。一方、ナズナは「私たちは体(吸血行為)だけの関係の友達」「夜遊びは不純くらいがちょうどいいぜ」などと言ってコウをからかう。抱きつき、添い寝をしてきて、突然キスもしてくる。さらに、まあまあエグい下ネタも口にする。しかし、彼女はふしだらでもあばずれでもない。ミステリアスに見えるその内側は純情な少女なのだ。ストレートに恋だの愛だのという言葉に過剰に反応し、恥ずかしがり照れまくり、のたうち回る。
こんなかわいい不思議なおねえさんに絡まれて、ときにはベタベタと肉体的接触があれば誰でも恋に落ちる……と思うのだが、そこはまだ14歳の単純でもあり複雑でもある少年期だ。恋も性もまだまだ発展途上のコウを、大人の私たちは見守るしかない。そしてナズナもまた、妖艶でありながら無垢な一面も持つ吸血鬼で、私たちの理解を超えている存在なのだ。
何はともあれ、コウはナズナと恋に落ちて吸血鬼になれるのか。この不思議なラブストーリーの一歩手前の物語は、第2巻まで読めばもうハマっているに違いない。
魅力的なキャラが目白押し!あなたを魅了するのは誰?
そんな序盤も文句なく面白いのだが、コウとナズナの物語は、第3巻以降大きく動き出す。具体的には、コウに学校へ来るよう諭す幼馴染の少女・アキラをはじめ、多くの人間や吸血鬼、眷族たちが登場し新たな局面を迎える。
ナズナの出生や吸血鬼の秘密が明かされ、吸血鬼を根絶やしにしようとする女探偵がコウの前に現れる。そして、吸血鬼になりたいもう一人の少年が登場。アニメ視聴勢はご存じのシリアス展開が待っているのだ。

とはいえ、魅力的なキャラクターたちのビジュアルと個性、そして独特のコメディタッチの読み味は変わらない。特に作者のコトヤマ先生が滑らかな線で生み出す、シンプルなのにどこか生々しいキャラは唯一無二の表現だと思う。しかもほぼ全員が、おもしれー性格、なのも高ポイントだ。コウがナズナにそうなったように、あなたも登場人物たちの誰かに魅入られるかもしれない。ちなみに私は吸血鬼ではないが、探偵さんに心惹かれている。

アニメと並走してストーリーを追うのもよし、全巻を一気読みするのもよし。できれば本作の雰囲気をより味わうために、深夜の夜更かしタイムで堪能することをおすすめする。
また2025年9月30日には本編完結以降、初の完全新作ストーリーとなる『よふかしのうた -楽園編-』『コトヤマ短編集 ファンフィクション』がコミックス同時発売となる。こちらもぜひチェックしたい。
文=古林恭