約900万円の入金に「これは本気だ」インスタのDMから依頼 ウズベキスタンで兵士に囲まれて寿司を握った相手とは/異端思考②

ビジネス

公開日:2025/9/9

異端思考 私が世界一有名な寿司職人になった理由』(渡邉貴義/ポプラ社)第2回【全4回】

 北九州にある「照寿司」の三代目・渡邉貴義氏は、エンターテインメント性を加えた独自のスタイルの寿司を展開。SNSも駆使して人気を爆発させ、今や世界中の食通を唸らせているほどに。さらに赤坂、西麻布、大阪、リヤドのほか、世界各国での出店も予定しているとか。「寿司オペラ」「寿司アドベンチャー」と称した寿司には業界内外から批判や中傷が少なくないものの、一切耳を貸すことなく「自分ブランディング」としてのスタイルを貫いている。そんな渡邉氏の思考をまとめた書籍『異端思考 私が世界一有名な寿司職人になった理由』より、一部を抜粋してお届けします!

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『異端思考 私が世界一有名な寿司職人になった理由』
『異端思考 私が世界一有名な寿司職人になった理由』(渡邉貴義/ポプラ社)

 2023年11月11日、自分はウズベキスタンで武装した兵士に囲まれながら、毒味係三人に凝視されながら寿司を握っていた。
 そして寿司を握った相手は、なんとウズベキスタンの大統領だった。

* * * * *

 それから遡ること1カ月前のこと。

 きっかけはインスタのDM。
 日本に住んでいるウズベキスタン人から連絡があった。「寿司を握りにウズベキスタンに来てくれないか」と。拘束期間は4~5日だという。

 なぜ自分に白羽の矢が立ったのか分からない。
 そのウズベキスタン人は自分のことをYouTubeやTikTok、Instagramで見たという。それでオファーをしてきたらしい。

 しかし、初めてコンタクトがあったときは握る相手が誰なのか、どういうイベントなのかも知らされなかった。なので、まさかその相手が大統領とは思っていなかった。むしろ、何かの罠だとか、自分たちが現地で拘束されるんじゃないかという不安さえ頭をよぎった。

 そのウズベキスタン人は、日本語が話せたが、読み書きはひらがなしかできない。なので、直接電話でやり取りをすることになった。
 話をしても、誰がお金を出しているか、そして自分が誰に握るかは絶対に言わない。
 情報もまったく出てこなかった。ただ、話の感じから政府の要人に握るらしいというのは伝わってきた。

 しかし、見ず知らずの外国人の依頼を、そんなに簡単に信用することはできない。まずは「show me the money」、つまり金を見せろと伝えた。すると、すぐに手付金6万USドルが振り込まれた。約900万円だ。
 これは本気だ。

 そして、その金で食材はもちろん、酒や器など寿司を握るために必要なものを日本で全部用意して持って来いという。用意する材料は、20人のイベント2回分、トータル40人分だ。
 しかし、海外行きの飛行機では、1人2個~3個程度の荷物しか持ち込めない。スタッフが同行するにしても限度がある。

 そのことを伝え、「無理だ」と言うと、要人の荷物だから問題ないと言う。最終的に、段ボールにして50箱、1トン分の荷物がOKとなり、アシアナ航空で福岡からウズベキスタンに運ぶことになった。

 最初は半信半疑だったが、そのウズベキスタン人が戸畑まで来て一緒に荷物を準備しているうちに、もしかしたらこれからすごく面白いことが起こるのではないかと、不安よりワクワクする気持ちが込み上げてきた。

 結局、連絡を取ってきたウズベキスタン人は日本語ができるシェフで、ただの仲介者。しかし、この時点で照寿司に実際にオファーをしてきたのは、国だったのか、民間企業が動いて大統領に寿司を献上する形だったのかは定かではない。さらにこの時点で、誰に握るのかも明らかにされていない。

* * * * *

 そしてDMが来てから3週間後、自分と弟子7人は、ウズベキスタンのタシュケント国際空港に降り立った。

 すると、飛行機を降りた瞬間、そっと近づいてきたスーツ姿の男に「照寿司チームか?」と聞かれただけで、その後はVIP待遇で通関もスルー。一般人の入国審査ゲートとは異なる政府関係者の要人用のゲートを通って、外に出た。
 到着したのは夜。
 周囲もあまり見えず、空港も小さかったことで逆に「ここがウズベキスタン!」ということを実感させられたのを今でもよく覚えている。

 その後、VIP用の黒塗りのメルセデス・マイバッハに乗り込み、ホテルへ。レストランでの食事の際に、いきなり「明日、大統領のところに握りに行く」と言われる。
 それまでの流れから、なんとなく予想はしていたことだが、「照寿司が、ついに国家元首に握るところまで来たか」と驚愕とともにしみじみと込み上げてくるものがあった。

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