北九州の寿司職人が確立した、寿司を「味わう」だけでなく「楽しむ」スタイルとは?/異端思考③

ビジネス

更新日:2025/9/10

異端思考 私が世界一有名な寿司職人になった理由』(渡邉貴義/ポプラ社)第3回【全4回】

 北九州にある「照寿司」の三代目・渡邉貴義氏は、エンターテインメント性を加えた独自のスタイルの寿司を展開。SNSも駆使して人気を爆発させ、今や世界中の食通を唸らせているほどに。さらに赤坂、西麻布、大阪、リヤドのほか、世界各国での出店も予定しているとか。「寿司オペラ」「寿司アドベンチャー」と称した寿司には業界内外から批判や中傷が少なくないものの、一切耳を貸すことなく「自分ブランディング」としてのスタイルを貫いている。そんな渡邉氏の思考をまとめた書籍『異端思考 私が世界一有名な寿司職人になった理由』より、一部を抜粋してお届けします!

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『異端思考 私が世界一有名な寿司職人になった理由』
『異端思考 私が世界一有名な寿司職人になった理由』(渡邉貴義/ポプラ社)

コロナを経てのインバウンドで唯一無二の存在に

 2021年に、前回の書籍『自己流は武器だ。』を出してから、4年ほどが経ちました。そして「はじめに」でもお話ししたように、かなり当時とは状況が変わっています。

 今、照寿司のような、寿司を「味わう」だけではなく、「楽しむ」という「劇場型エンターテイメント寿司」というジャンルが、この飲食業界で確立されつつあります。

 ただ、ここではっきりお伝えしておきたいのですが、それを始めたのは照寿司です。
 それまでは、そういったジャンルは誰も開拓していなかったですし、むしろ日本の保守的な飲食業界は、こういった料理とエンターテイメントをかけ合わせたような飲食店は鼻で笑われるような世界でした。それが今や世界中に求められているのが現状です。

 照寿司は、日本に「世界に出て行く寿司屋」というカテゴリーがなかったからこそ、そこに気づいてチャンスを見出すことができたのではないでしょうか?
「異端」だったからこそ自由に世界に出ていくことができた。

 照寿司は、今、最小の人員で、最大の店舗数を構えられているのではないかと思います。なぜなら、それだけ照寿司というブランドのネームが上がっているので、すでにブランドネームで集客できるところまできているからです。
 照寿司の社員は2025年5月現在で6人です。その人数で、北九州、東京、大阪、海外との折衝や出店、海外でのイベント出演を回しています。

 マネジメントはもちろん自分が行っています。

 なぜこういったことが可能になったかというと、それは照寿司の寿司も含めてですが、自分がノンバーバル(言葉を使わない)のこのスタイルを作り上げたことが、世界でも分かりやすい「寿司」として大きく受け入れられたからだと思います。

 このスタイルが確立された当初は、自分のスタイルに「SUSHIBAE」という名前をつけていましたが、最近ではそれを進化させて、手で握った寿司をお客様の手に渡すスタイルを「DOZO(ドゥーゾ)」と名付けて拡散しています。
 この振る舞いに「DOZO」と名付けてはいますが、そこに言語のコミュニケーションは不要です。自分が握った寿司を相手の手に渡してそれを食べていただく。
 それだけで、ノンバーバルなスタイルの完成なのです。

 正直、自分がこのスタイルを始めてから6~7年経ちますが、最近では自分を真似して同じようなスタイルをする方も増え、「劇場型エンターテイメント寿司」という言葉が乱立して、それに対してすごく嫌気が差すこともあります。
 自分が6~7年前からやっていることを真似してくれるのは、うれしいことでもありますが、やはり質が伴っていないと、自分が築き上げたもの自体も安っぽくなってしまいます。

 特に大阪や東京で目立つのが、コロナ後、資本力のある飲食業界の企業が始めた、席数8席といった高単価でコントロールしやすい業態の飲食店です。それまでは席数100人規模だったお店を閉めて、こういった小規模の店舗に営業形態をシフトチェンジする企業が増えているのです。

 つまり店の作りは東京などのミシュラン獲得店と変わらないけれども、客単価は1万円程度、といった店が増えました。特にこの形は寿司店で顕著で、寿司屋の景色が、すごく変わったと思います。東京はもちろん、大阪や名古屋、福岡に多い気がします。寿司は素人が握っていて、雰囲気はそこそこの高級寿司居酒屋、という感じでしょうか。

 カウンターに座ると、カウンター内の板さんがエンターテイメント的なことをしてくれるのですが、多分、オーナーが自分の動画を見せて「これをやれ」と指示をしているんでしょう。かわいそうに、その板さんは、恥ずかしそうにやっています。

 そもそもお寿司というのは、もともとカウンター商売で、目の前でお客様に握るという、ある意味エンターテイメント性のあるものだったはず。
 それをさらに親切に分かりやすくゲストに伝え始めたのが照寿司なのであって、そこの本質を理解せずに形だけ真似しているのは、二流、三流がやることです。

 本当の一流の寿司店なら、独自の方法で自分たちだけのエンターテイメント性を追求して表現していけばいい。それができないから、単なる猿真似で終わってしまうのです。
 そのエンターテイメント性というものは、別に照寿司のような振る舞いのスタイルでなくてもいいわけです。素材でも寿司そのものであってもいいわけです。ただエンターテイメント性ですから、お客様に喜んでもらえるものでないと。逆に喜んでもらえるものなら何だっていいと思います。

 そこに自分の店のオリジナリティがあれば、それでいいのではないでしょうか? しかしそれができない店が何と多いことか。だから照寿司の真似をするのだとは思うのですが。

海外からのオファーはInstagram経由でやって来る

 海外の企業やVIPからの依頼は、いずれもInstagramのDMからやって来ます。
 別に自分から特に営業をしたわけではありません。
 コロナ前から地道にInstagramで照寿司の活動を発信し続けてきたことが、こうやって世界から声がかかる源泉になっているというか、信用になっているのかなと感じています。
 しかし昭和生まれの自分にとっては、InstagramのDMで仕事が来るというのは、そういう時代だということはもちろん理解していますが、正直面白いものだと感じています。

 DMの中にはもちろん怪しいものもあります。第2章でもその辺のことは詳しくお話ししますが、怪しそうな人からのDMは、まずは送り主の名前で検索をしてフィルターにかけたり、あまりに幼稚なものは相手にしません。文面などである程度の見分けはつきますしね。

 海外の富豪や大企業とやりとりをしてきて分かったのは、彼らは「呼びたい人にはいくらでもお金を出す」ということです。
 もちろん金額は常識の範囲内ですが、とはいえ一般の人が想像する金額とは桁が2桁違います。彼らに「ディスカウントをして、少しでも安く呼びたい」という発想はありません。払える範囲でなら、といってもその範囲もとても高いわけですが、相手の希望の額を出したい、そんなスタンスです。

 海外では、サッカーチームを自分の国に招聘するために、ギャランティを何百億円払う、という世界もあります。
 さすがに照寿司のギャランティはそこまでの世界ではありませんが、「寿司」という食べ物はもちろん、照寿司のエンターテイメント性に価値を認めていただいて、照寿司にもそれなりのお金を出すと言ってもらえるのは、すごくうれしいことです。

Instagramをとにかくやり続ける

 今の状況になるにはInstagramの功績も大きいです。
 Instagramでは照寿司の世界観が分かるような投稿を長年上げ続け、チャンスが来たらチャンスを取りに行っての繰り返しでした。もちろん、だからこそ今の状況があります。
 しかもそのチャンスは、いつやってくるか分からない、来るかどうかも分からない、という状態でした。ですけど、めげずにやるしかない。

 そう思って何年もやり続けてきました。
 でも、意外とみなさんそれができない。途中で心が折れて諦めてしまったり、どこかでできなくなってしまうわけです。

 すぐやめてしまう。
 つまり自分が続けていれば、周囲がどんどん落ちていく。ですから結局やり続けた人が勝つわけです。成功の秘訣は? と聞かれたら当たり前すぎることなんですが、「やり続けること」です。

 では、どうして自分が、めげてやめなかったかというと、暇だったからというのが実は大きいんです(笑)。でも、Instagramの投稿を、自分の人生というか、生活のルーティンに入れた、というのがあると思います。
 人間は、朝・昼・晩と食事をしますが、そういった人間が生きていくのに欠かせないもののつもりで、Instagramにも取り組んでいました。生きていくためには食事を抜くことがないように、Instagramの投稿も欠かさない。それぐらい徹底してやらないと、チャンスをつかむのは難しいと思います。

 しかもInstagramは無料です。
 無料で世界中の人たちの投稿を見ることができる、いわばSNS上での最高の世界が見られるわけですから、やらない手はありません。世界で流行っていることで、それがまだ日本に持ち込まれていなければ、それを自分が行って、日本での第一人者になってもいいわけです。

 なかなか続けられないという人は、自分の人生の「10年後を見る」ということをしていないからです。
 10年後、自分がどうなっていたいか? そのためには今何をしたらいいか? それについて思いを巡らせている人は本当に少ないです。

 自分は、Instagramを10年続けて、今の場所に立っています。
 10年前にInstagramを始めて本当によかった。ここまでなれるとまでは予想していませんでしたが、それでもこのInstagramを今始めたら、戸畑の照寿司がもっと世界に知られるようになるはず、と思って始めました。

 他の人は、なぜ自分の10年後を考えてInstagramをやらないのでしょうか? もちろんそれはInstagramでなくてもいいのですが、10年後のために今できることは何かしらあるはず。それをしない人がほとんどなのが、とても不思議です。

 今の自分の一つ一つの行動は、全て先へ繫がっているわけですから、それを意識しながら日々を送ることはとても重要です。
 そのうえで、運とかチャンスというのがやってくるのだと思いますし、やり続けることでしか周囲の人には、気づいて認めてもらえません。
 続けることでしか、チャンスを手にすることはできないのです。

<第4回に続く>

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