山里亮太は“ほっとけない系”パーソナリティ リスナーにさらけ出す弱い心の内/ラジオはパーソナリティ〝次第〟①
公開日:2025/9/19

山里さんのもうひとつの脱皮は結婚報告をしたとき。
僕は結婚発表の10日前くらいに本人から告知された。山里さんとマネージャーと僕の3人で会議室に入り、何やら神妙な表情で話し出す山里さん。「結婚します」という突然の告白にびっくり仰天。だけど、ふと見るとマネージャーさんがスマホをかざしていたので、山里さんのライブ「140」で何かしらの企画にするのかな? とも考えた。続けて「相手は蒼井優さんです」という追撃で「やっぱり140の企画だな」と確信した。
だけどネタバラシもしないし、山里さんはずっと真顔だし……。「あ、マジなんだ?」とじわじわ感じてきた。結婚が事実であると確信した瞬間、全身が熱くなるのを感じた。心の底から祝福した。
結局、世紀のカップル誕生の報は、結婚発表をする記者会見当日の朝、スポーツ新聞によって日本中を駆け巡った。会見当日は昼過ぎからずっと山里さんに帯同した。水曜日だったのでそのまま「不毛な議論」まで一緒にいようと決めていた。僕に何ができるってわけじゃないけど、ほっとけなかった。やっぱり〝ほっとけない系パーソナリティ〞だ。
昼にNHKで仕事が終わるとのことで、NHKで合流したとき、山里さんは当然だけどだいぶ緊張しているように見えた。そこから会見が行われるホテルに向かい、控室となる部屋で何気ない話をしていた。それでもその晩のJUNKでどう話すのかは確認しておかなければならない。言えること、言えないこともあるだろうし。
僕「山ちゃん、今夜、どうする?」
山「結婚の決意を後押ししてくれたリスナーのことを言おうと思ってる」
放送を聴いてくれたリスナーはご存じだと思うが、番組の最後に話したエピソードのことだ。
山里さんはそれまで特に男女関係において幸がないことを武器にしてきた。そんな部分が受け入れられてリスナーが付いてきてくれているとも感じていた。だから「自分だけが幸せになっていいのか?」という迷いがあった。
ある日、リスナーが経営する飲食店に行った。そこで店主から「不毛リスナーはボス(山里さん)が幸せになってくれることを望んでいます」と言ってもらった。幸せになることをためらい、結婚に対して前向きになれなかった自分の背中をリスナーがグッと押してくれた……というエピソード。
僕「それ話したら泣いちゃわない?」
山「うん……やばいかも」
メディアの仕事をしていると、こういった状況は確実に色気が出る。番組がおいしくなるよう打算がはたらく。きれいごと抜きで。
大多数が山里さんを祝福する声であふれていたが、
「前もってわかっていたならもっと大々的な企画にしたらよかったのに」
「奥さんに電話繫ぐくらいできなかったの? ついさっきまで一緒だったんでしょ?」
放送後、局内外をはじめSNSにいたるまでいろんな意見が飛び交った。
誰の何のためにそれをするのか……。
番組はリスナーのもの。一方で山里さんの結婚は山里さんと奥様のためにあるもの。人の結婚を道具のように扱うようなことはしたくない。
番組の意向を介在させる是非はつねにつきまとう。どんな形で表に出すか。非常に難しく、その対応によって番組の器量や価値観が試される。大袈裟だけど人生の大きな局面について身を賭してラジオで話す、それだけで十分だと思った。話す場となるのみ。それが、リスナーのために、新しく夫婦になる2人のために、番組が為せるすべてだ。
ラジオはリスナーのハートも必要なくらい「不完全なメディア」なんて表現したけど、このときばかりはいつも以上にリスナーの山里愛を感じた。そのリスナーの愛情があったからこそ、その夜、行き当たりばったりな心情の吐露がコンテンツになり得た。それができるラジオっていう場所は本当に不思議なところだ。こうして山里さんはリスナーに手をかけられながら、脱皮してパーソナリティとして成長し続けている。
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<第2回に続く>