アルコ&ピース(平子祐希、酒井健太)×宮嵜守史【対談】リスナーを置いてけぼりにしてないか不安も…ふたりが持つ“発展させ力”/ラジオはパーソナリティ〝次第〟⑤
公開日:2025/9/23
『ラジオはパーソナリティ〝次第〟』(宮嵜守史/ポプラ社)第5回【全5回】
「結局、ラジオはパーソナリティのものなんだよ」。AD時代、放送作家に言われたこの一言が忘れられない――。ラジオ番組の賛否を全面的に背負うパーソナリティ。その魅力や必要な能力、聴く人を味方につける技術とは? TBSラジオ「JUNK」統括プロデューサーで本書の著者・宮嵜守史。山里亮太、ヒコロヒー、ジェーン・スー、アルコ&ピースら計9組の人気パーソナリティとの対談を通してラジオパーソナリティとは何かを考えた一冊『ラジオはパーソナリティ〝次第〟』をお届けします。


2人の仲間に入りたい アルコ&ピース
アルコ&ピースを初めて認識したのはいつだろう。僕の中にスゥーッと存在していた2人。「THE MANZAI」での忍者のネタ。「キングオブコント」での精子と卵子のネタ。賞レースで若干の物議を醸した2人。
〝こういう人たち〞と捉えきれていないまま彼らのラジオ「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を聴いた。おもしろすぎて圧倒された。リスナーとして今までにない角度で笑わされる感覚。やっていることはラジオではお馴染みの演出だったりする。でもラジオのスタンダードに乗っける上物が全く新しいものに聴こえた。
一見するとどこかドライ。ちょっと欠けている人間性。欠けた部分があるからこそ、僕らリスナーがシンパシーを感じるのか。完成された人間性と社会性がないから「自分と同じだ」と感じる。そんな側面が熱狂を生むのかもしれない。
「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」に「家族」というコーナーがあった。本当の家族には言えないリスナーの日常を送ってもらうコーナー。僕はこのコーナーの入り口が大好きだった。家族にも友人にも言えない、だけどアルコ&ピースになら言える。なぜなら僕らと一緒だから。そう思わせる側面もラジオパーソナリティにとって大きな武器になり得る。
『D.C.GARAGE』がスタートするまでの内幕
宮嵜 ニッポン放送の『オールナイトニッポン』★1 時代で、強烈に覚えてるのはウルヴァリン★2 の回。平子君の手からウルヴァリンみたいに爪を出す方法をリスナーから募集して。もちろんオリジナリティがあるんだけど、SEを使った遊びは昔ながらのラジオの演出でさ。
平子 「シャキーン!」と爪を出す音を出してましたね。
宮嵜 前に雨(上がり決死隊)さんの『べしゃりブリンッ!』を担当してたんだけど、こっちが出すSEに2人が翻弄されつつ、そこにリスナーもちょっかいを出して、どんどんおもしろく転がっていく状況が楽しかったわけ。出演者とリスナーと我々で一緒に作ってる感じがディレクター体験として残ってた。それで、『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』を聴いたとき、「これこれ!」と思った。リスナーとアルコ&ピースとスタッフが一緒になって、×3じゃなく何十倍、何百倍にもおもしろくしてるなと。だから、「この2人はすごい」と素直に思ったの。パーソナリティとしての素養もあるし、「チクショウ、悔しいなあ」と感じながらずっと聴いてたのよ。
平子 そのころは面識ってなかったんでしたっけ?
宮嵜 平子君と初めてしっかり会ったのは、まだニッポン放送でやってるころだと思う。誰かの単独ライブ終わりに「ちょっと飲みに行こう」ってなって、そこに平子君もいたんだよね。そこで初めて話したと思う。酒井君とは『D.C.GARAGE』が始まってからかな。
酒井 そうかもしれないですね。
宮嵜 前から太田プロの府野(竜也)マネージャーとは知り合いだったんだけど、府野さんからオールナイトが終わるという連絡を受けて、これは声かけないわけにはいかないと思ってさ。そのときの編成部長に「もったいないから、どうにかしたい」って掛け合って。
酒井 そこで動いたのがすごいですよね。
平子 そこら辺の話は知りませんでした。
宮嵜 編成部長が「実は24時台を改編しようって考えてる」と。「生放送は費用や人員の面で難しいから録音になってしまうけれど、24時台に1時間ずつ番組を作ろうと思ってる」と聞いて、すぐに企画書を書いてさ。月曜日には『東京ポッド許可局』★3 、金曜日は『マイナビ Laughter Night』があったから、火曜日にアルコ&ピース、水曜日にうしろシティ、木曜日にハライチって考えたんだよね。その提案がわりと好感触だったから、府野さんにすぐ連絡したの。自分も含めてなんだけど、リスナーの中でアルピーのオールナイトロスは強かったじゃん? TBSでこのままできるとなれば、リスナーは変わらないし、パーソナリティも変わらない。変わる可能性があるのはディレクターと作家。そこを変えずにいけたら、リスナーのロスは癒やせるんじゃないかと考えたの。石井君★4 は当時ニッポン放送の関連会社所属だったけど。
酒井 福田★5 はまだあれですけど、石井をよく引っ張ってこられましたよね。
平子 あのとき、Twitter(現X)なんかで「今度はTBSでアルピーの番組が始まるんだ」ってウワーッと反響があったでしょ? そのあと、第二波として「石井と福田もスライド?」でまたウワーッとなったんですよ。
酒井 相当頑張ったんですか?
宮嵜 結構頑張った(笑)。やっぱりお互い警戒するよね。石井君が所属してたのは単なる制作会社じゃなく、ニッポン放送の直下の制作会社だったから、ニッポン放送の色が濃いわけ。だから、石井君の上司に連絡して、「会社のルールとして、他局で仕事をするのはありですか?」ときいたの。「うちは制作会社だからいけると思います」とお返事をいただいたので、その方にニッポン放送側との交渉をお願いして。
酒井 ビックリしましたもん。〝禁断の移籍〞って感じでしたからね。まあ、実際に移籍はしてないけど。
宮嵜 TBSラジオもTBSラジオで、ニッポン放送でバリバリに番組を作ってる人がこっちでもやることに「むむ……」と思う人がいなくはなかった。そこは「アルコ&ピースのラジオには必要不可欠なんです」と説明して、理解してもらった。お互い素晴らしい決断をしてくれたよね。
★1 ニッポン放送で2013年4月〜2016年3月に放送。1年目と3年目は木曜日27時から、2年目は金曜日25時からの枠を担当し、深夜ラジオリスナーから大きな支持を集めた。
★2 2015年4月2日放送。映画『X-MEN』で鋭い爪を武器にして活躍するスーパーヒーロー・ウルヴァリン。それまでヒュー・ジャックマンが演じていたが、降板報道を受けて、平子が代わりに担当すべくメールが募集された。
★3 自主制作のPodcastを経て、TBSラジオで2013年4月にスタート。パーソナリティはマキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオ(米粒写経)の3人。
★4 石井玄。『D.C.GARAGE』初代ディレクター。『オールナイトニッポン』時代からアルコ&ピースのラジオでディレクターを務めていた。現在は独立し、株式会社玄石の代表を務める。
★5 福田卓也。放送作家。『オールナイトニッポン』時代からアルコ&ピースの番組につき、『D.C.GARAGE』も担当。『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』、『三四郎のオールナイトニッポン0』、『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』、『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0』などでも作家を務める。
アルコ&ピースが持つ「発展させ力」
宮嵜 TBSラジオで始められると聞いたとき、2人はどう思ったの?
平子 ニッポン放送では毎年演出半分ではあるんですが、「終わるかな? 続くかな?」みたいな雰囲気がちょっとあったんですよ。ネタ半分本気半分で、オンエア上でもオフでも「今年はどうなんだ?」があって。そのころ、「TBSラジオでは芸人がどっしりと長期間やらせてもらえる」という話を他の芸人によく聞かされたんですよ。僕はもともとそんなにラジオを聴いてるほうじゃなかったから、その感覚がわからなくて。でも、TBSラジオで始まるってなったら、「TBSだ!」っていう反響がとにかく大きかったんですよ。
宮嵜 今とは違って、当時の『オールナイトニッポン』の27時台は入れ替わりが激しかったからね。気持ちはどうだったの? オールナイトは楽しかったんでしょ?
平子 みんな楽しく聴いてくれてるし、僕らも楽しくやってるのに、なんでこの短いスパンでハラハラさせられるんだろうという気持ちが強かったです。「さあ、どうする? 終わるか? 続くか?」みたいな煽りって、もちろん楽しい演出として入ってたけど、リスナーの反響の中には、「俺らがせっかく見つけた居場所を、そんな形で奪わないでくれよ」という生の声も正直あったから。TBSに行っても、長くやらせてもらえるというのはあくまで感覚でしかないし、もちろん終わる番組もあるわけですし。でも、ラジオって「この曜日のこの時間はこの人のラジオを聴くんだ」というリスナーの思いがある。だから、今までついてきてくれたリスナーからの反響を受けて、「もしかしたら、長いことやれる場所ができるのかな」とちょっと思いました。
酒井 平子さんと違って、僕は前からラジオを聴いてたし、ニッポン放送でやって、今度はTBSでまたやれるってなかなかないじゃないですか。ニッポン放送ではナインティナインさんの後に僕らがやって、今度はTBSで爆笑問題さんの前にやれる。僕はどっちも聴いてたから、単純にリスナーとしてメチャクチャ嬉しかったですね。ただ、府野さんから最初に話を聞いたときは、「たぶんバラしになる」って思ってました。前例がないから、「そんなわけねえしな」みたいな。
平子 期間もそんなに経ってなかったから展開が速くないかなって思った。単発かなとも思ったし。
宮嵜 いきなりのレギュラーだから、『D.C.GARAGE』が始まる前に、『おぎやはぎのメガネびいき』に出てもらったんだよ。オールナイトが終わった3週間後にゲストに来てもらって、オールナイトのタイトルコールをしてもらったもんね。
平子 そうだ、そうだ。ビター・スウィート・サンバかけましたね。
宮嵜 あのときは、ほぼほぼ番組をやる方向だったとはいえ、正直、100%は決まってなかったかもしれない。当時は『JUNK』をはじめとするTBSラジオの深夜リスナーに〝アルコ&ピースがおもしろいと思ってもらえるか?〞がすごく重要な気がしたのね。アルピーのラジオファンは『オールナイトニッポン』でしっかりついてたから、あんまり心配はしてなかったけど、TBSだけを聴いてるリスナーがいるとしたら、そこにもちゃんと刺さってほしかった。同時にTBSラジオの局内にもアルピーがおもしろいことが伝われば安心できる。最後の一押しみたいなところはあったかもね。
平子 僕らが番組を始めるときは『メガネびいき』の他に『爆笑問題カーボーイ』にも出させてもらいましたよね。あれはよかったです。お兄さん方に顔見せして、挨拶できたんで。
酒井 なんとなくTBSラジオの雰囲気が知れました。みんな優しいですよね。自由にやってくださいという感じを出してくれたので。僕が番組が始まって感じたのは、やっぱり生放送は楽しかったなって。『オールナイトニッポン』とは違って『D.C.GARAGE』は基本録音じゃないですか。今でも正直、生のほうがいいなって思ってます。録音も慣れてきたので、それはそれでいいんですけど。
宮嵜 そうだよね。僕も生放送をやりたい(笑)。
平子 僕も生がいいですね。アルコ&ピースの形式上もそうだけど、生が似合ってる。僕がなんか言う。酒井がなんか言う。そこにリスナーからダイレクトで生の声が届いて、そこから変わっていくのが自分たちのラジオというか。僕らには別に確固とした芯がない。だからこそ生でやりたいですね。
宮嵜 生放送でも録音でも感じるんだけど、2人には〝発展させ力〞というか、〝たとえ力〞があるよね。最近だと地下の書斎の話題が出たときがそうだったんだけど、既視感のある描写を2人で言い合ったりするじゃない? 映画やドラマをもとにした〝あるある風景〞みたいなものをすぐに出せるのは何でなんだろうって。そこがアルコ&ピースのラジオの特徴だし、アルコ&ピースの武器であり、特技のような気がするんだよね。
平子 そういう風景じみたもの……たとえば、地下室とか、怪しい洋館とか、ゴリラがいる森林とか、そういうものが好きという共通点は僕と酒井と福田にあるかもしれません。3人で話し合っているわけじゃないんだけど、そういう場所の空気感はみんな好きで笑っちゃう。頭に思い描いたときに笑っちゃうのは共通認識としてありますね。
酒井 リスナーを置いてけぼりにしてないかなって不安になるときもありますけど。3人で盛り上がりすぎて。
宮嵜 場合によってはそういうこともあるかもしれないけど、アルピーのラジオはそこを凌駕してると思う。それでもなお支持してくれるリスナーがいるのは強みだよ。反面、プロデューサーとしては、そういう空気は醸しながらも、裾野を広げる思考も2人には付けていってほしいかな。
酒井 始まったころに宮嵜さんがよく言ってましたよね。「新しいリスナーを取り入れたほうがいい」って。
宮嵜 もったいないと思うんだよね。このおもしろさを広げることも大事だなって思う。言ったら中毒者の人数をもっと増やしてほしいなって。
平子 話せば話すほど、僕らは間口を狭めていきますからね。ここまでわかってたヤツをさらに絞って、ふるいにかけてる(笑)。
宮嵜 だけど、そのふるいにかけられて残ったリスナーは絶対に離れないのもたしかだよ。ラジオ番組は扉を閉めるタイミングがすごく大事なんだよね。その番組の独自のノリや独自の言語を使い始めるのは、新規のリスナーが入り込めない空気を生んじゃうけど、すでに中に入っているリスナーにとったら、メチャクチャ心地いいことだったりもする。だから、閉じる閉じないのタイミングはすごく重要なんだよ。
平子 僕らは閉じるところでグルーヴを感じちゃうから(笑)。
宮嵜 だから、それを半開きのまま続けるのか、1時間のうち40分閉めて、20分はちょっと開くのか。やり方はいくらでもあると思う。
<続きは本書でお楽しみください>