「今までの恨みやトラウマが消えるわけじゃない」毒親でも介護しなければダメですか? 憎しみと責任感の狭間で揺れる介護【書評】

マンガ

公開日:2025/9/28

 大嫌いな父親が、がんで余命1年と宣告された。毒親でも介護はしないとダメなのだろうか? 『余命300日の毒親』(枇杷かな子:漫画、太田差惠子:監修・解説/KADOKAWA)は、著者の介護体験をもとに、“毒親介護”を描いたセミフィクション作品だ。

 主人公のヒトミは、母を亡くした2年後に父の余命宣告を受ける。父が動けなくなった時、世話がすべて一人娘である自分にのしかかってくるのではないかと恐れるヒトミ。小さい頃、父から暴力を振るわれて育ってきたことによる恐怖や嫌悪感から、なるべく関わらずに逃げる道を模索するも、否応なしに介護をせざるを得ない状況に追い込まれる。昔と変わらず横暴な態度の父に時間も精神も削られる日々。大嫌いな親への憎しみと、娘としての責任感に揺れるヒトミの介護が描かれる。
 
 親なんだから面倒をみて当たり前。親なんだから優しくできるはず。それが自分を殴るような親でもそう思えるだろうか。父は先が長くないことはわかっているが、「最後は優しくしてあげた方がいいんじゃない」という夫の言葉を、ヒトミは素直には受け入れられない。往復2時間の通院に付き添い、時間もお構いなしに呼び出される日々に、夫と娘たちとの生活も、心の拠り所でもある仕事も奪われていく。「恩知らず!」と罵られることはあっても感謝されることはない。介護に追われる日々がリアルに描かれており、精神的なしんどさが伝わってくる。
 
 関わりたくない父親の介護に関われば関わるほど、仕事や家族、そして自分自身の心身に支障をきたす現実に、感情が爆発してしまうヒトミ。しかし介護とは、たとえ親子関係が良好だったとしても、前に進めず心折れることばかりなのかもしれない。だからこそ本作は、大切な人や自分自身を守るために大切なことを教えてくれる。また要介護認定、ヘルパー、ケアマネージャーといった介護に関する知識も得られるのも有益だ。

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 子どもが親の面倒をみるのは当たり前なんかじゃない。そんな社会の実現のためにも、多くの人に読んでほしい1冊だ。

文=ネゴト / Ato Hiromi

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