第37回「宮崎」古事記や日本書紀に記された神話由来の伝統が残る土地の本棚には、どんな本が並んでいるのか? 【あの町の本棚】
公開日:2025/9/10
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年9月号からの転載です。

今回の舞台である「宮崎県」は、古事記や日本書紀に記された日向神話に由来する伝統が数多く残されているエリア。なかでも「高千穂の夜神楽」は国の重要無形民俗文化財に指定されており、古くからの神事として大切にされている。他にもさまざまな文化財や祭りが親しまれている宮崎に暮らす人々は、どんな本を愛するのか。少しずつ紹介してもらった。
構成・文=イガラシダイ、イラスト=千野エー
高千穂町観光協会 南條孝太朗さん


“刺青”や“秘密”に愉悦を見出す男たちの、倒錯的な世界を描く、耽美な初期短編集。「あれほど熱を上げていたものがどうでもよくなる瞬間。秘密というものの湛える深遠な魅力と人の認識の不思議さを感じる、私の一番好きな短編小説です」

優雅な集まりを舞台に、次々に起こる惨劇。ミステリーの名手が放つ、邪悪な5つの事件の真相とは。「読書サークル『バベルの会』が全体を緩く繋ぐ短編ミステリー。中でも『玉野五十鈴の誉れ』のラスト一文を読んだときはあまりのおぞましさと鮮やかさで息が止まりました」

元過激派の父は、国家権力が大嫌い。そんな父が突然西表島に移住すると言い出し、そこでもまた大騒動が起きてしまう。「小説は娯楽としての濃さや即効性などにおいてマンガ・映像作品等に一歩譲るところがあると思いますが著者の作品はその例外。活字がこんなに面白いのかと不思議に思います」
[高千穂町観光協会]
〒882-1101 西臼杵郡高千穂町大字三田井809-1
TEL:0982-73-1213
HP:https://takachiho-kanko.info
宮崎県北部の九州脊梁山地のほぼ中央に位置し、天岩戸、天安河原、くしふるの峰など神話の舞台と伝えられる地が数多くあることから「神話の里」と言われる。 豊かな自然が多く残り、パワースポットとしても注目されている。
KIMAMA BOOKS 店主 クドウタツヒコさん


超掌編約180編と掌編11編を収録した、唯一無二のSF小説群。魔術のように繰り出される言葉の数々に、いつしか心酔しているはず。「文庫本より小さいサイズの本に宇宙が広がっている。自由律俳句とショートショートの間で言葉を巧みに操り、想像力を掻き立てる!」

豊潤な感性で綴る文章が人気の著者による、子ども時代の思い出をまとめたエッセイ。笑えるのに、不思議と泣きそうにもなる読み口。「表現力豊かな文章がとても読みやすく、クスッと笑ったり、ジーンと泣いたり、綴じられた大切な思い出は心温まります」

本好きの間で話題になったエッセイの続編が登場。本が隣にある日常はこんなに豊かで美しく、面白いのかと溜息がこぼれるかも。「待望の第2弾。前作に引き続き、本や本屋さんへの愛から生まれた共感と苦笑いのエピソード。おすすめ脱力系エッセイ」
[KIMAMA BOOKS]
〒880-0803
宮崎市旭1-3-12 奈良ビル102号
TEL:0985-89-2753
Instagram:kimamabooks
宮崎市楠並木通りにある、新刊と古本を扱うセレクト書店。週に一度、新刊や古本が入荷。イベントなどの情報はインスタグラムにアップしている。
ポロポロ書店 店主・岩下勇樹さん


父親が開いていた祈禱会や中国戦線で死に直面した瞬間を、独特の視点で描いた連作集。谷崎潤一郎賞を受賞。「店名は、この小説タイトルから拝借してます。ポロポロとは具体的に何か説明されてません。いろんな意味や解釈があってよいと思います」

好きなことで生きるためにはどうすればいいのか。資本主義社会のなか、自活して暮らすためのアイデアをまとめた一冊。「当店で取扱いさせてもらっているファッションブランド『途中でやめる』の山下陽光さんの本。陽光さんの発想にいつもワクワクしてます」

ささやかな日常のなかに漂う生と死の瞬間を、エモーショナルな表現で切り取る。どこか切なくも、前を向く力をもらえる短編小説集。「シンガーソングライターである豊田さんの儚くて切ない言葉や誰も書かない生々しい表現に惹かれます」
[ポロポロ書店]
〒880-0805
宮崎市橘通東3-5-33 佐藤ビル北棟1階北
Instagram:polowpolowbooks
新刊・古本合わせて約600冊の書籍を扱う書店。書籍だけでなく、山下陽光さんのリメイクファッションブランド「途中でやめる」などの衣服も取り扱っている。
あの町と本にまつわるアレコレ
ここ最近、宮崎県を舞台にしたマンガが続けて映像化され、話題を集めている。ひとつは『【推しの子】』。芸能界の闇を描くサスペンスだが、実は作中の重要な場所として高千穂町が登場している。それを受け、地元は大盛り上がり。『【推しの子】』とコラボし、高千穂町でしか手に入らない限定グッズを販売したり、キャラとともに観光できる音声ガイドを 作成したりと、まさに聖地として注目を集めた。
そしてもうひとつが、実写映画も公開された『かくかくしかじか』だ。人気マンガ家である東村アキコの自伝的作品で、宮崎市を舞台に、マンガ家以前の若き日々が熱く描かれている。ちなみに、こちらも東村の作品である『ひまわりっ ~健一レジェンド~』も、宮崎が舞台。実在する店舗が出てくるなど、作者の地元愛が強く感じられるだろう。
また、宮崎が生んだ人気マンガ家は東村だけではない。彼女の弟であり、『となりの関くん』で知られる森繁拓真、『エア・ギア』で第30回講談社漫画賞少年部門を受賞した大暮維人、テレビアニメ化もされた『EAT-MAN』の吉富昭仁と、錚々たる顔ぶれが揃っている。もしかしたら、次世代を担う新人マンガ家も、また宮崎から生まれてくるかも? マンガ好きならば、注目しておきたい土地だ。



