突然家に来た子どもが自分の子だった。卵子と精子の提供による「有償の命の創造」が合法化された世界で描く、新しい家族のカタチ【書評】

マンガ

公開日:2025/9/26

 家族の形は人それぞれで、正解はひとつではない。昨今は社会的価値観も徐々に変化し、従来の「親子」「夫婦」といった枠組みにとらわれない家族像も増えている。養子縁組や事実婚、シングルペアレント、パートナーとの共同生活など、血縁に関係なく家族として暮らすケースもある。

 家族のあり方というものを柔軟に考えられる時代になったといえるのだろう。『egg わたし、あなたの子どもです。』(鳥野しの/KADOKAWA)は、そんな新しい家族の形をオムニバス形式で描いた物語だ。

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 本作の舞台は、卵子と精子の提供による「有償の命の創造」が合法化され、家族の定義が劇的に変わった社会。従来の血縁や婚姻関係だけではなく、金銭を介した第三者の遺伝子提供により、誰でも子どもを持つことが可能となった。この仕組みで家族の形は急速に多様化する。血のつながりが必須ではなくなる一方で、親子関係や親権、感情面での絆のあり方など、新たな倫理的、社会的課題も生まれているのだ。

 第1話の主人公は、ひとり暮らしをしている37歳の独身女性・丘嶋てるる。ある日、彼女のもとに突然現れたのは「あなたの子どもです」と名のる少女・安奈だった。事情を聞くと、安奈は15年前にてるるが提供した卵子から生まれたのだという。これまで存在すら知らなかった少女と、家族として向き合わなければならない現実。突然現れた「我が子」との共同生活により、ひとりで過ごす時間を愛し、気ままに暮らしてきた彼女の価値観は少しずつ変わっていく。

 本作における「家族」とは、互いを尊重して支え合えるつながりのことで、「普通」や「理想像」にとらわれず、自分たちにとって心地よい形を選ぶことを何よりも大切にしている。この考え方は、現実の人間関係に参考にできる部分があるのではないだろうか。本書を読むことによって、「大切な人とのつながり方はこれでいいのか」「不利益な関係を清算したい」などをあらためてしっかり考える機会になるかもしれない。

文=ネゴト / 糸野旬

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