「怪しすぎる」「でも胸キュンが止まらない」呪われた美人伯爵令嬢と、謎多きイケメン豪商の美麗ミステリーロマンス『四度目の夫』【書評】
PR 公開日:2025/9/11

全てを諦めながら生きてきたのに、どんな顔をして良いのかわからない。あの人はどうして私なんかに甘い言葉をかけてくれるのだろう。今まで出会った人とは違う気がする。だけど、本当に信じていいのだろうか。不運続きの日々の果て、ふいに注がれた愛情に戸惑う――そんな経験は、いつの時代にも、誰にとってもあるのではないだろうか。
『四度目の夫』(明生チナミ/LINEマンガ)は、これまで三度も夫を失った美しき伯爵令嬢と、彼女に強引に求婚した豪商の美麗ミステリーロマンス。大人気ラブコメディ『ラブミーテンダーにさようなら』で知られる明生チナミが、クラシカルな時代を背景に紡ぐ、重厚な一作だ。読み始めれば、美しくもどこか翳りを帯びた繊細な作画に、瞬く間に引き込まれる。そして、ミステリアスな愛の行方から、目を離すことができなくなってしまう。
物語は、伯爵令嬢・藤林美青の三番目の夫の葬儀から始まる。美青の最初の夫は流行病で、二番目の夫は橋から落ちて亡くなり、そして、三番目の夫は、芸妓との酔っ払い運転で事故死した。次々と夫を亡くしてきた美青を、三番目の義母は葬儀の場で、「疫病神」「あんたが呪い殺したんだろう!?」と責め立てる。
そんななか現れたのは、この街の大地主で大豪商の富嶋基。なんでも富嶋は、美青の亡き三番目の夫に多額のお金を貸していたらしい。借金をどうやって返すつもりなのかと、遺族たちに詰め寄る富嶋。そして、それを帳消しにする代わりとして、美青に強引に求婚。ふたりは結婚することになる。

この時代は女ひとりでは生きられない時代。美青に断る選択肢はない。それにしても、どうして富嶋は美青との結婚を急いだのだろう。これまでの結婚と同じように「伯爵令嬢」という地位を求めるにしたって、富嶋ほどの豪商ならば引く手あまたのはず。優れた美貌をもつとはいえ、”呪われている”と噂される美青を選ぶ必要はないはずだ。

美青と同様、富嶋の求婚に違和感を覚える読者は多いに違いない。だが、読み進めるほど、富嶋の美青への愛は本物としか思えず、さらに戸惑ってしまう。
「いつか必ずあなたの笑顔を引き出せるようになってみせます」
富嶋から注がれるまっすぐな愛情と、それにうまく応えることのできない美青のぎこちないやりとりに思わずキュンとする。つい頬が弛まされ、「富嶋のことを信じたい」「どうか美青には幸せになってほしい」と思わずにはいられない。

だが、純真なやりとりに胸をときめかされつつも、張り詰めた空気は続く。どうして美青にはこんなにも不運が続くのだろう。富嶋と結婚した後も不可解な出来事は止まず、美青と富嶋は命の危機に何度もさらされる。富嶋は「呪いなんて存在しない」と言い切るが、それならば、一体美青の身に何が起きているのか。そして、富嶋はどうして美青と結婚したのだろう。その真相が気になって気になってたまらなくなってしまう。
ああ、鼓動の高鳴りがおさまらない。知的で優美な美青と、そんな美青にストレートに愛を注ぎ続ける富嶋。この作品は、ラブロマンスとしても、ミステリーとしても、面白く、続きが気になってしまう。この愛は一体どこへ向かおうというのか。先の展開が読めないこのミステリーロマンスを、是非ともあなたもひもといてほしい。
文=アサトーミナミ


『四度目の夫』
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