“離婚しない”がハッピーエンドではない。物語のラストに込めた想い【著者インタビュー】
公開日:2025/10/1

「自分は有能で、仕事も家庭もうまくやっている」そう思っている勝ち組の夫・翔。そんな夫とは裏腹に、夫の機嫌を絶えずうかがい、傷ついてきた妻・彩。自分がモラハラ被害者と気づいた彩は、娘を連れて家を出て行った。変わりたいけど変われない、もがき苦しむ夫。壊れた夫婦関係を修復しようと努力するが、妻が出した結論は――。そんな一組の夫婦を描いた漫画『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』。そして、翔の上司で毒親だった鳥羽とその娘・奈月、ふたりの会社のハラスメントについて描く漫画『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』。2作の原作者である中川瑛さんは自身も妻へのパワハラを行ってきた元DVパワハラ加害者だといいます。現在はGADHA(ガドハ)というDV加害者が集まるコミュニティやPaToCa(パトカ)という親子関係に関するコミュニティを運営している中川さんに、2作が生まれた経緯やコミュニティで得た知見についてお話を伺いました。
――本作のラストについて、親子関係はどんな結論を迎えるのかを含め、いろいろな着地の仕方があったと思うのですが、今回はなぜこのようなラストになったのですか?
中川瑛さん(以下、中川):僕と龍さんの中ではもう初期の段階からラストは決まっていたのですが、担当編集さんは別のラストを推していて(笑)。「いやこれはこれでいいんです」みたいな話をした記憶があります。
――ということは中川さんの中では割と早い段階でラストは決まっていたんですね。
中川:そうですね。例えばハッピーエンドといっても、何がハッピーエンドかは難しいと思うんです。例えばGADHAに参加した加害者の方が離婚を要求されているけど、離婚したくないと考えているとします。すると、離婚しないというのがハッピーエンドだと思われるかもしれませんが、そうではないんです。DV加害者が自分の課題を自覚し、被害者の言葉を認められるようになったら「相手のニーズは何だろう?」と考えるのですが、そうすると相手からのニーズは「自分と離れること=離婚」になっているんですね。GADHAの方を見守る中で一番しんどい時なのですが、相手のニーズを尊重して穏やかに離婚した場合、関係が良い方向に向かうケースもあるんです。「もっと一緒にいたいし悲しいけど、あなたの考えを尊重して離婚します」という場合と、相手のニーズを拒否して親権の問題になるなどもめ事が続いた場合とでは“離婚”という結果は一緒でもその後が違いますから。離婚しても関係が良くなって、その後一緒に暮らすようになったという方もGADHAにはいらっしゃいます。
――なるほど。
中川:あと今回は「加害は連鎖するけど、ケアも連鎖していくんだよ」ということを伝えたい気持ちがありました。『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』の主人公である鳥羽が変わっていった経験が『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』の主人公・翔を変えていったように、キャラクター同士が間接的に繋がっていくことでそのメッセージを伝えられるようにしました。登場人物が多いので考えるのは大変だったのですが……。ぜひ細かいところも見てほしいです。
取材・文=原智香