加害側、板挟みになる人、救おうとする人……様々な視点で描いた職場でのパワハラ【著者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/10/2

「自分は有能で、仕事も家庭もうまくやっている」そう思っている勝ち組の夫・翔。そんな夫とは裏腹に、夫の機嫌を絶えずうかがい、傷ついてきた妻・彩。自分がモラハラ被害者と気づいた彩は、娘を連れて家を出て行った。変わりたいけど変われない、もがき苦しむ夫。壊れた夫婦関係を修復しようと努力するが、妻が出した結論は――。そんな一組の夫婦を描いた漫画『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』。そして、翔の上司で毒親だった鳥羽とその娘・奈月、ふたりの会社のハラスメントについて描く漫画『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』。2作の原作者である中川瑛さんは自身も妻へのパワハラを行ってきた元DVパワハラ加害者だといいます。現在はGADHA(ガドハ)というDV加害者が集まるコミュニティやPaToCa(パトカ)という親子関係に関するコミュニティを運営している中川さんに、2作が生まれた経緯やコミュニティで得た知見についてお話を伺いました。

――職場のシーンはパワハラを受けている人、上司と部下の板挟みで苦しんでいる人、社員を助けようと動く人……など様々な立場の視点から描かれていました。

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中川瑛さん(以下、中川):職場の描写についてはGADHAのメンバーから話を聞いたり、僕自身が組織開発のコンサルタントとして働いてきたりした経験を踏まえたりしたので、リアリティがある程度担保されたのかな、と思います。ここでしっかり描きたかったのは「奈月が加害者に見えること」と、「それは上司からの影響を受けているのが明らかであること」のふたつです。僕は組織の経営者と直接対話するような仕事もするのですが、そこでの実感は、組織のトップがハラスメントに対する意識が高くないと、どんなにいい取り組みをしても必ず限界があるといこと。だから奈月くらいのポジションの人は加害者になってしまうこともあるけど、それって奈月個人の問題ではなく、組織・制度の問題でもある。個人を悪者にして解決することではないというのを言いたくて書きました。

――その奈月の性格や考えは本作において重要な意味を持つと思うのですが、奈月の心情描写はどのように描かれましたか?

中川:まず前提として、GADHAに参加している人の3割くらいは女性なんです。DV加害者は男性だけではありません。奈月は気分・感情の波が激しく、強いイライラ感を抑えられません。これは彼女の幼少期の傷つきを原因とした複雑性PTSDが起因しています。家庭内にDVがあると、継続的でかつ逃げられない暴力として子どもにトラウマを植え付けてしまいます。一見目の前のことに怒っているようだけども、本当は目の前のことがトリガーになって昔の記憶が蘇ってきてパニック状態になる。自分が攻撃することで自己を守ろうとしている。そういうことも踏まえて考えていきました。

取材・文=原智香

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