『信長の忍び』ついに本能寺――。17年間の連載が幕を下ろす。戦国時代4コマの最高傑作が堂々完結!!!【書評】

マンガ

更新日:2025/10/29

信長の忍び 23巻
信長の忍び 23巻(重野なおき/白泉社)

「織田信長のでっかい夢に魅せられた忍びの女の子、千鳥」の物語が、ついに完結する。『信長の忍び』(重野なおき/白泉社)は、戦国時代を120%魅力的に描く、唯一無二の4コマ漫画だ。

 伊賀の忍びである千鳥は、忍びらしくない純粋さを持つ、ちょっとドジな女の子(強さは化け物級)。「日本(ひのもと)の乱世を終わらせる」という信長の想いに共鳴したことから、信長を心の底から敬愛し、仕えている。

信長の忍び
信長の忍び

 本作は千鳥の視点を軸に、“信長の軌跡”を笑いあり、涙ありで描いているのだが、時に信長を取り巻く武将や姫たちにもフォーカスされ群像劇の様相になることもあり、「4コマ漫画」という“ライトさ(読みやすさ)”と、史実を多面的に捉え、丹念に追った展開という“厚み”を、見事に融合させた稀有な作品なのである。

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 その本作が連載約17年という時を経て、ついに完結する。

 前巻は、明智光秀の激しく揺れ動く心が固まり、本能寺で信長を討つため出陣の号令を下すという緊迫感あふれる中、終了した。

 最終23巻は、本能寺の変と、千鳥や助蔵、光秀、秀吉、帰蝶……この漫画を彩った数多くの登場人物たちの「その後」が描かれる。

信長の忍び
信長の忍び

 ネタバレも何もないので書いてしまうが、本能寺の変で信長が最期を迎えるのは周知の事実だろう。そんなドシリアスな展開の中でも、4コマ漫画としてのギャグを忘れず、プッと笑ってしまう場面もたくさんありつつ、千鳥と信長の「最期の会話」は、思わず胸にグッときてしまった。連載17年間、全23巻分の重みを含んだこのシーン、泣かずにはおかないはずだ。

 さて、ここからは本レビューを書いている筆者の感想になる。多くの読者が感じていることだと思うが、本作における「日本史愛の深さ」について、改めて語りたい。

 著者の重野なおき先生は、おそらく一次史料(後世の研究者がまとめた史料ではなく、当時の人が書いた記録)も丹念に読み込み、日記に残っている些細な一文などもご存じの上で、キャラクター像を膨らませながら物語を創作されているのではないだろうか。

 史実を大切にしつつ、ギャグとしても面白いなんて。

 本作が人気を博すのも当然だと思う。

 もう一つ、日本史愛の深さを感じるのは、あれだけ多くの登場人物が出てくるのに、みんながみんな「愛すべきキャラ」なことだ。

 戦国時代は戦いの時代である。勝者と敗者がいるからこそ、カッコイイ主役がいる一方、悪人、卑怯なやつ、ダサいやつとして描かれるキャラも必ず存在してしまう。しかし本作では、「主役級」ではないキャラクターたちにも、「愛され要素」がいっぱい感じられるのだ。

 光秀は信長を討った悪役だが、彼のメンタルの弱さ、悩み葛藤する様子を読者は愛さずにはいられないのではないだろうか。

 個人的に好きなのは、22巻まで登場していた武田家の家臣・長坂釣閑斎(ながさか・ちょうかんさい)の描き方だ。一般的な日本史好きが抱く彼のイメージは「主君にこびへつらう奸臣(小賢しいやつ)」なのだが、本作では、史料から逆算される奸臣のイメージをギャグのネタにし、“愛あるイジリ”をしつつ、それだけではない信念のある一面も描いている。こういったところに、著者の日本史への視点の深みと、創作者としての才能を感じてしまったりする(感服)。

 千鳥と信長の物語。幕を下ろす瞬間を、見逃さないでほしい。

文=雨野裾

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