母親の遺品整理を通して見えてきたのは自分の「終活」。これからの人生を身軽に生きるために「老い」を見つめるコミックエッセイ『母の遺品整理で学んだ人生を軽くする方法』【書評】

マンガ

公開日:2025/9/30

 年齢を重ねることは、誰にとっても避けられない現実だ。しかし“老い”を意識することは、必ずしも“死”に向き合うことと同義ではない。これからの未来をより良く生きるきっかけにもなるのだ。『母の遺品整理で学んだ人生を軽くする方法』(堀内三佳/竹書房)は、母親の遺品整理や死後の手続きをきっかけに、主人公が自身のこれからの人生に向き合う物語である。

 年齢と共に身体が不自由になり、それが不安感や気難しさにもつながっていた著者の母親は、リボ払いの残債や、日々の生活雑貨、趣味の手芸道具など多くのモノを遺して亡くなった。遺された家族はそれらをひとつひとつ整理していくことになるが、その過程は、単なる物理的な片付けだけにとどまらない。著者にとっては、母親の歩んできた人生に想いを馳せる時間になると同時に、自分自身の生き方や暮らしを少しずつ見直していくきっかけとなったのである。

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 “終活”という言葉は、どうやって人生を終えるかという“死”を強く意識させるものだろう。しかし、それは見方を変えれば、「死ぬまでに自分はどう生きたいか」を自問することでもある。本作の中で印象的なのは、著者が遺品整理をきっかけに自分の身の回りも整えていこうと行動するところだ。中でも、使っていないポイントカードやキャッシュカードを確認したり、パスワード帳を整理したりといったことは、読者もすぐに真似して実践できるだろう。これらは、終活の中の身辺整理のひとつであると同時に、自分がより身軽に生きていくことにもつながっていく。

 本作は決して“終わり”だけを語る漫画ではない。むしろ、“これから“をどう生きるかを考える1冊である。少しずつ、けれど確実に老いていく自分の未来を悲観するのではなく、体力も気力もあるうちに、できるところから整えていく。その積み重ねこそが、自分にも周囲にも優しく生きていくことにつながるのだと、本作は教えてくれる。

文=ネゴト / 桜小路いをり

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