無限ループの迷宮に入り込む主人公 悪夢の如き体験の先に待つものは? 『8番出口』【レビュー】
公開日:2025/9/30
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年10月号からの転載です。
雑誌『ダ・ヴィンチ』の人気コーナー「カルチャーダ・ヴィンチ」がWEBに登場! シネマコーナーでは、目利きのシネマライターがセレクトする“いま観るべき”映画をピックアップしてご紹介します。

『8番出口』
監督:川村元気
出演:二宮和也、河内大和、浅沼 成、花瀬琴音、小松菜奈
2025年日本 95分
配給:東宝 全国東宝系にて公開中
●地下通路のどこかに<異変>があれば引き返し、なければそのまま前に進む。【1番出口】【2番出口】……と正しければ【8番出口】に近づくが、見落とすと【0番出口】に戻る。絶望的にループする無限回廊から、男は脱け出すことができるのか?
©2025 映画「8番出口」製作委員会
男が独り、白く無機質な地下通路を黙々と歩いてゆく。天井には【出口8】の看板。だがいつまでも出口には辿り着かない。やがて自分が同じ通路を繰り返し歩いていることを悟った男は、「ご案内」と書かれた奇妙なパネルを見つけるが……。
原作は世界的に大ヒットを記録し、2024年の流行語大賞にもノミネートされた“異変”探し無限ループゲーム。都市生活者なら見慣れた光景のなか、異変を見つけたらすぐに引き返し、見つからなければ引き返さない。シンプルなルールながら独特の緊張感やホラー風味が魅力のゲームの、プレイヤーに必要なのは注意力と忍耐力だ。また思い込みを捨て、ときに視点を変えること。映画版では共助の大切さも浮かび上がらせ、それはまさに人生において不可欠なことばかりだと、気づかされてゆく。
監督&共同脚本は、『君の名は。』『怪物』などを企画・プロデュース、自著を自ら映画化した『百花』でサンセバスティアン国際映画祭シルバーシェル賞(最優秀監督賞)を獲得した川村元気だ。目利きクリエイターの彼が、「世界に勝負できる」原作の世界観を尊重しつつ、大人のエンターテインメントへと昇華。観る者の解釈に委ねる余白を残しつつ、主人公の置かれた状況や様々な葛藤を、誰もが自分事として体感させられる。
脚本協力も担った“出口”を求める男・二宮の多彩かつ細やかなリアクション演技はもちろん、恐怖を煽る〈歩く男〉河内の存在感もクオリティを底上げ。同じ旋律が微妙に変化しながら繰り返されるラヴェルの名曲、「ボレロ」が物語の余韻を深める95分間の劇場サバイバル体験だ。
文=柴田メグミ
しばた・めぐみ●フリーランスライター。『韓国TVドラマガイド』『MYOJO』『CINEMA
SQUARE』などの雑誌のほか、映画情報サイト「シネマトゥデイ」にも寄稿。韓国料理、アジアンビューティに目がない。