一体どこからどこまでが自分なのか――? 絡み合った姉妹の絆が醒めない悪夢と化す『九月と七月の姉妹』【アリアン・ラベド監督 インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/9/29

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年10月号からの転載です。

『九月と七月の姉妹』監督 アリアン・ラベド

撮影=ヨルゴス・ランティモス
撮影=ヨルゴス・ランティモス

 NYタイムズ紙の「2020年の100冊」に選ばれた小説をベースに、長編映画で初メガホン。

「姉妹関係、家族の絆、遺伝、思春期、欲望、権力。そういった私の心を深く打つ普遍的なテーマを取り上げた原作との出合いから、この映画は始まりました。けれど脚色イコール、原作をバラバラに壊すこと。私独自の作品にするために、まるで片手に大切なものを、もう一方の手に手術用のメスをもって臨むような、犠牲と決断が求められる作業でした。とはいえ幸運にも、原作者が『あなたの好きにして』と任せてくれて。大好きな姉妹のキャラクターや、従来の映画では描かれなかった脚の毛を剃ったり生理がきたりする、女性に“あるある”な日常のディテールを前面に出しつつ脚本に落とし込む作業は、すごく楽しかったです」

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 物語は、姉妹とシングルマザーの母親シーラにフォーカス。

「私の願いは、観客が3人の女性のなかに自分自身を見出してくれること。もちろん彼女たちはかなり極端なタイプですが、私自身も3人それぞれに自分との繋がりを感じています。ちなみにシーラが電子タバコを手放さないのは、私が電子タバコの愛飲者だからです。またこの家族は、言葉や精神よりも【身体】を信頼し重んじているので、家族の共通言語として犬笛みたいな口笛だったり、動物の鳴き声を取り入れました。彼女たちのなかに自然が根づいているのだと、表現したかったからです」

 ホラー要素にも独自性を発揮。

「いわゆるホラーっぽい描写の逆をいきました。多くは幽霊や精霊を登場させたり超常現象を起こすと思いますが、私の場合はスピリチュアルではなく日常生活や身体に戻ってゆく。よりナチュラルな、土臭いアプローチを心がけました。何よりこだわったのは "音"ですね。『関心領域』のジョニー・バーンによるサウンドデザインが、不穏な空気を創り上げてくれました」

取材・文=柴田メグミ

アリアン・ラベド●1984年生まれの女優・映画監督。フランス人の両親のもと、幼少期をギリシャで過ごす。ドイツを経て、12歳でフランスへ移住。大学で演劇を学び、2005年に共同で劇団を設立する。映画デビュー作『アッテンバーグ』で、ヴェネツィア国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。その他の出演作に、『欲望の航路』『ロブスター』『ブルータリスト』など。

『九月と七月の姉妹』
監督:アリアン・ラベド 
出演:ミア・サリア、パスカル・カン、ラキー・タクラー 
2024年アイルランド、イギリス、ドイツ 100分 
配給:SUNDAE 9月5日より渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

●10か月違いで生まれた一心同体の姉妹、セプテンバーとジュライは支配関係にありながら、強い絆で結ばれていた。だが学校でのある事件を機に、姉妹は母とアイルランドへ引っ越すことに……。
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