小説『この声が届くまで』特別対談 上田竜也×中村嶺亜(KEY TO LIT)

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/10/6

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年11月号からの転載です。

上田竜也さんとプライベートでも交流があるという後輩の中村嶺亜さん。大学では油絵を専攻し、読書も好きだという中村さんは今年6月に刊行された上田さんによる小説『この声が届くまで』をどう読んだのか。才能や努力について、思うところをお二人に語っていただきました。

上田竜也さん(以下、上田):嶺亜とは、最近プライベートでもよく会うようになったね。

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中村嶺亜さん(以下、中村):もともと『炎の体育会TV』とかでご一緒していましたけど、去年、上田くんが企画した『MOUSE PEACE FES. 2024 1st Bite』に参加させてもらって以来、ものすごくお世話になっています。『この声が届くまで』も発売してすぐ買いました! 格言みたいに響く言葉がたくさんあったけど、いちばん好きなのは〈減点ばかりされているヤツらでも、たった1つ、その減点を覆せるくらいのプラス点があれば、小さいプラスしかないヤツらよりもずっと効果的に人を魅了できる〉というセリフ。

上田:俺も、どこがいちばん好きですかって聞かれると、同じことを言ってる。

中村:ほんとですか!

上田:俺は、減点される側の人間だったから。そう信じてやるしかなかったし、誰かにそう言われたくもあったものを、嶺亜が真っ先にあげてくれるとは思わなかった。

中村:よかったー! 僕、ふだんはミステリーを読むことが多いから、どうしてもトリックとか構成が凝っている小説に惹かれがちなんです。上田くんの小説はとにかく真っすぐで、だからこそ、キャラクターたちが今目の前にいるんじゃないかって思うくらいの臨場感で、感情が迫ってくる。そのあちこちに、上田くんが人生で学びとってきた教訓がちりばめられているから、こんなにも心に突き刺さるんだろうなって思いました。会話劇のようになっているから、読んでいると、自分もzionの仲間としてその場にいるような気持ちにさせられるんですよね。俯瞰して読むんじゃなくて、物語のなかにぐっと入り込んじゃう。

上田:それもまさに、狙いどおり。俺は小説を書きたかったというよりも、頭のなかにある物語をどうにかしてかたちにしたかったんだよね。マンガのキャラクターみたいにくっきり浮かんでいる登場人物たちの姿を、どうにかして読んでくれる人たちにも見せたかった。会話が多いのは、そのほうがイメージしやすいんじゃないかと思ったからで、まさに嶺亜が言ったとおり、一緒にいるような気持ちになってほしかったから。

中村:それでいうと、僕は終盤で失踪してしまった主人公の龍を、みんなが見つけ出すシーンでいちばん、映像が浮かびました。zionのみんなが胸の内をさらけだして龍にぶつかって、それに応えるようにして龍の弱さが見えたとき、くっきりと、その姿が浮かんできて……。上田くんが思い描いていたものと同じかどうかはわからないけど、実写で観てみたいなあって思いました。

上田:そこまで言ってもらえるなんて、めちゃくちゃ嬉しい。そのシーンも、まさに俺がいちばん書きたかったところだから。

才能とタイミング両方あって 「売れる」ということ

中村:でもやっぱり、いちばん実写化してほしいのはライブシーンですよね。ステージに立っているときの臨場感は、プレイヤーの視点をもつ上田くんだから表現できたものだと思います。zionが売れるまで十年以上かかっているというのもリアルだったなあ。僕も7年近くバンドグループで活動してきて、龍と同じように武道館をめざしていたから、どうしたら突破口を開けるのか試行錯誤を重ねる姿にも、めちゃくちゃ感情移入しちゃいました。対バンすると、世界が広がるぶん、葛藤も大きくなるんですよね。世の中には数えきれないほどのバンドがいて、売れるために努力し続けているのに、結果を出せるのは一握り。才能があるのは大前提で、きっかけをつかむのがいちばん難しい。その瞬間にたどりつくまで、何年も、もしかしたら何十年も、モチベーションを一緒に保ちながら力をあわせていくことも……。

上田:実際に、俺や嶺亜がたどってきた道は、zionのメンバーとは違うけど、その難しさはたぶん誰もが身に沁みていることだし、俺も痛いほどよくわかっているから、物語のなかに落とし込みたかったんだよね。嶺亜だって、俺は、売れない理由はないと思っているのよ。まあ、もうじゅうぶん売れているとは思うけど、タイミングよくフィーチャーされれば、もっと人気が爆発するはず。

中村:上田くんがそう言ってくれるなら、僕、絶対に売れます!

上田:いや、ほんと冗談抜きで。ただ、世の中にはタイミングってものが本当にあるんだよね。timeleszの寺西(拓人)なんかがいい例で、いきなり人気が爆発したように見えているけど、ビジュアルも実力も申し分ないくらい、そもそも磨かれていたわけ。そのままの寺西を推していた人たちも、たくさんいる。それを、タイミングよく世間が気づいたっていうだけなのよ。

中村:僕たちからしてみれば「いまさら!?」って感じもありますもんね。

上田:そう。でも、ライトな興味をもつ人たちもたくさん惹きつけるのが売れるということだから。その道をいかに探るか、自分でつくり出すかが大事なんだと思う。人任せにしたり、ただ待っていたりするだけじゃ、チャンスは絶対に訪れない。

中村:小説では、龍がみんなの先頭に立って引っ張ってくれるじゃないですか。でも、メンバーのみんなはただついていくだけじゃなく、毅志はふざけながらも風通しをよくしてくれるし、ヒロトはさりげなくサポートしてくれるし、誠一郎は俯瞰したアイディアを出してくれる。それぞれができることを尽くして、背中合わせで頑張ることが必要なんだなってことも、改めて感じました。

ただ待っているだけじゃ チャンスは落ちてこない

上田:ただ、残酷なことに巡り合わせが悪いってこともあるんだよね。キー坊っていう別のバンドのボーカルが登場するんだけど、龍とは表と裏みたいな気持ちで書いていた。たとえるなら『ファイナルファンタジーⅦ』のクラウドとザックス、って言えばわかる人にはわかるかな(笑)。

中村:なるほど!(笑)キー坊は、確かに物語においては“裏”なんだけど、彼の存在がなかったらきっと、音楽事務所の鶴岡さんは、zionに可能性を見出さなかったと思うんですよね。あのときうまくやれなかった悔しさを乗り越えたいっていう、鶴岡さん側の想いもあって、zionはデビューのきっかけをつかむ。その運の強さもまた必要なんだろうなと思います。でも、間違えちゃいけないのは、上田くんがさっき言っていたみたいに、幸運が落ちてくるのをただ待っているだけじゃだめなんですよね。

上田:そう。その場に突っ立っているだけじゃ、落ちてこない。

中村:サッカーでいうと、ボールが来るところを予測して待ち構えていなきゃいけないっていうか。常に俯瞰して状況をとらえ、チャンスをつかめる場所に立ち続ける。なおかつ、パスがきたら絶対に逃さないだけの実力を磨いておく。そのどちらも兼ね備えていたから、zionはゴールを決められたんだってことを忘れちゃいけないし、僕もそういう生き方をしなきゃいけないと思いました。

上田:万全の状態でパスを受けても失敗することはあるんだから、準備不足でだめになることだけは避けたいよね。いつボールがまわってくるかわからないのに待ち続けるのはしんどいけど……。俺は本当にいろんな不条理を味わってきたし、自棄になりそうになったこともあるけど、そうなって損をするのは俺だけなんだよね。俺がふてくされようが、落ち込もうが、不条理を与えてくる奴らにはなんの影響もない。そんな馬鹿みたいなことあるか?って、俺はどんなに折れそうになっても立ち直るようにしてる。

中村:そうやって揺れながらも続けることって、本当に難しいじゃないですか。でも、それでも自分を貫いたら、たどりつける場所があるんだぞってことを、上田くんは身をもって教えてくれるんですよね。『炎の体育会TV』でも、本当は走るのが好きじゃないって言いながら、先頭で僕らを導いてくれる。好き嫌いなんて関係ない、やるときはやるんだってことを、行動で示してくれる。そういうところに、マジで惚れます。僕に足りない部分でもあるから。

上田:絶賛するじゃん(笑)。

中村:本当ですよ。僕はどちらかというと、乗り越えられない壁はよければいいやと思っていて。後退さえしなければいいし、意外なところに抜け道があるかもしれないから、柔軟に頑張ろうって決めているんです。もちろん、自分が成長できるチャンスだと思えば挑むこともありますけど、追い詰められて自分自身を輝かせることができなくなったら本末転倒。とにかく自分が楽しく、生きやすい環境をつくることが、頑張り続けるためには大事だなと。

嘘をつかない生き様が 小説に説得力をもたせている

上田:それでいいと思うよ。俺も、全部、自分のためだもん。エンターテインメントが好きで、この世界でやっていきたいと思っている自分のために、前に進むしかないと思っているだけ。もちろん、応援してくれる人たちのためというのもあるけど。

中村:ファンファーストでありながら、誰になんと言われようとやりたいことをやり抜く我の強さをもつのが、上田くんのすごいところですよね。そして、ファンの人たちもみんな、好きなことをやり続ける上田くんにしかつくれない世界を見たいと思っている。その信頼関係は一朝一夕にはつくれないし、長い年月をかけて上田くんが見せてきた生き様が信頼に足るものだったからだと思うんですよ。後輩として、とても憧れますし、僕もそうあれるように頑張りたい。

上田:できるでしょ、嶺亜なら。

中村:ありがとうございます。上田くんの言葉は、ストレートで気持ちがいいんですよね。いいものはいい、悪いものは悪いってちゃんと言ってくれる。わかったふりも、絶対にしない。そういう、ときに不器用な上田くんのつくりあげる中二病の世界観が、僕は大好きなんです。

上田:ちょっと、いきなり毒吐くのやめてもらっていい!?(笑)

中村:えっ、違いますよ! 僕にとって中二病は誉め言葉です!

上田:ほんとか!?(笑)

中村:大人になると、場の空気を読んでおもしろくもないのに笑ったり、思ってもいないことを言ったり、どうしたってズルさを身につけていくじゃないですか。でも上田くんは、絶対に嘘をつかない。真正面から向き合ってくれる。そういう上田くんだから『この声が届くまで』というどこまでも真っすぐな小説を書くことができたんだと思います。しかもこれ、十年以上前から構想をあたためていたんですよね? アイディアの早さにも驚かされるし、これほど熱い想いを変わらずもち続けていられたのも、すごい。

上田:もうちょっと早く出せていたら、と正直思うけどね。十年前に出せていれば何かが変わっていたかもしれない、と。でもまあ、それもタイミングだから。

中村:僕は、今がベストだったんじゃないかなと思うんですよね。バンドの青春劇であると同時に、生き様を問う物語でもあり、上田くんがこの十年で積み重ねてきたものがあるから、説得力が増している。不条理なことも含めて、経験を重ねてきた上田くんだからこそ書ける小説になっているんです。僕自身、うまくいかない時期があったからこそ身についたものもあるよなって思うんですよ。事務所に入って16年くらいたつけど、もっと早くドカンと売れていたら、手に入らない力もたくさんあった。そう思うと、何事も“今”がベストなんじゃないかなって。それに今なら、実写化したときに僕も参加できる可能性がある。ぜひとも、ヒロトを演じたいです!

上田:実は、表紙のイラストを考えるとき、ヒロトのビジュアルは完全に嶺亜で想像していたんだよね。

中村:やったー! 

上田:嶺亜は絵を描くし、その裏に細かい世界観を設定していて、創作の才能にも溢れているから、一緒にいるとすごく刺激になる。グループとしての活動を含め、まだまだいろんな可能性があるんだと思わせてくれる嶺亜から、今日はたくさん感想を聞けて嬉しかったよ。

中村:こちらこそです! また一緒にごはん食べにいかせてください!

取材・文=立花もも、写真=TOWA、ヘアメイク=豊福浩一(Good)(上田さん)、服部幸雄(メーキャップルームプラス)(中村さん) スタイリング:野友健二(UM)(上田さん)、小林洋治郎(中村さん)

うえだ・たつや●1983年、神奈川県生まれ。2006年よりメンバーとして活動していたKAT-TUNが25年3月に解散。俳優としても活躍し、ドラマ『ネメシス』や舞台『謎解きはディナーのあとで』などに出演。

なかむら・れいあ●1997年、東京都生まれ。ジュニア内グループKEY TO LITのメンバー。俳優としても活躍し、出演作にドラマ『極道上司に愛されたら』など。

この声が届くまで
(上田竜也/KADOKAWA)1760円(税込)

高校時代に仲間とバンド「zion」を結成して10年以上。先の見えない現実に、メンバーの一人がついに脱退を申し出る。自分の短気のせいで売れるチャンスを逃してきた自覚のある龍は、残った仲間とともに最後の勝負に出る。幼なじみで、ずっと一番のファンでいてくれる七海との約束を果たすためにも、今度こそ成功をつかみたいのだが……。