夢破れ引きこもった元子役を救ったのは便利屋?不器用なアラフォー女子の再起物語【書評】
公開日:2025/10/27

夢に破れ、長いあいだ立ち止まってしまった人は、再び歩き出せるのか。『再生のウズメ』(天堂きりん/祥伝社)は、そんな問いに優しく答えてくれる物語だ。
本作の主人公は、元子役の40歳・田村ウズメ。28歳のときに役者を諦め、結婚もせず、働きもせず、実家の部屋に12年間引きこもり続けていた。同級生が自立して家庭を持つ中、どう変わればいいのかも分からず、自堕落な日々を送っている。そんなウズメを見かねた母は、「便利屋」を呼ぶことにした。彼女の汚部屋を片付けにきた便利屋のスタッフ・興梠(コオロギ)は、演技経験のあるウズメを「代行スタッフ」としてスカウトする。そこで働くことで、ウズメの人生が新たに動き出していく。
人生を懸けて突き進んできた夢や理想が叶わず挫折したとき、気持ちはきっと折れてしまうだろう。ウズメも同じように心折れてしまった人物だ。夢破れた悔しさや、周囲との比較から生まれる焦り、行動したいのに動けない自分への苛立ち。彼女の姿はどこまでも人間臭く、リアルだ。完璧な主人公ではないからこそ、読者はウズメに自分自身を重ね、共感しながら読み進めることができる。
長年積み重ねてきたプライドや卑屈さは、簡単には崩せない。ウズメも、すぐに変われるわけではなかった。便利屋に誘われても「自分には絶対無理」と断ろうとするのだが、そんなウズメの頑なな心を、興梠は明るさと人懐っこさで少しずつ解きほぐしていった。強引に見える行動も多いが、彼はウズメの中に眠る力を信じ、役者を目指していた彼女の誇りに寄り添いながら言葉を投げかける。そうしたやり取りが、ウズメの心を少しずつ動かしていく。そして、便利屋を通して様々な人の人生を知ることで、ウズメは自分の人生を見つめ直していく。
完璧でもカッコよくもない。それでも迷いや葛藤を抱えながら、重い扉を開けて歩き出すウズメの姿は胸を打つ。少しずつ歩みを進めるウズメの姿は、読者の背中を優しく押してくれるだろう。
文=ネゴト / fumi
