心に傷を負ったOLを救う鮭かま弁当。北海道の路地裏の弁当屋からはじめる癒しの物語【書評】
公開日:2025/10/28

心身が疲れたとき、美味しい食べ物はお腹も心も満たしてくれる。『弁当屋さんのおもてなし1』(十峯なるせ:漫画、喜多みどり:原作/KADOKAWA)は、食べ物が人の心を癒す力を優しく描いた作品だ。テレビドラマ化で話題を集め、9月8日には第3巻が発売されたばかり。読めばきっと美味しいご飯が食べたくなる、そんな一冊だ。
物語の主人公はOLの千春。恋人に二股をかけられ、心に深い傷を抱えたまま北海道・札幌に転勤する。新しい土地で孤独を抱えながら働く千春は、ある日、路地裏の弁当屋「くま弁」に足を踏み入れる。店員のユウが差し出したのは、千春が注文したものとは違う弁当だった。戸惑いながらも口にした瞬間、頑なに固まっていた心が少しずつ解けていく。
千春に差し出されたのは「鮭かま弁当」。どうして鮭かまだったのか、その理由はぜひ物語を読んで確かめてほしい。そこには、千春の心に静かに寄り添うユウの深い想いが込められており、胸が熱くなるはず。恋人に裏切られ、自分が何を求めているのか見失っていた千春にとって、この弁当は再生への小さな一歩となる。食事を通して少しずつ自分を取り戻していく千春の姿は、読者の背中もそっと押してくれる。
その後、千春は「くま弁」にたびたび足を運ぶようになり、ユウや店長・熊野、そして常連たちとの温かな交流を重ねていく。3巻では、千春が密かに憧れていた占い師との出会いも描かれ、自分自身を見つめ直す大きなきっかけとなる。また、ユウとの関係にも少しずつ変化が訪れ、期待をくすぐる展開からも目が離せない。
いくらやホッケフライ、じゃがいもなど、北海道ならではの食材を生かした料理はどれも美味しそうで、ページをめくるたびに食欲がわいてくる。そんな美味しいご飯は、ただ空腹を満たすだけではない。時に自分の本音に気づかせてくれたり、前に進む力を与えてくれたりする。本作は、そんな食と心のつながりに気づかせてくれる優しい物語だ。
文=ネゴト / fumi
