外食がこわい。食べることを通して生き方を考える会食恐怖症克服への道【書評】

マンガ

公開日:2025/10/31

 誰もが一度は、家庭や学校で「食べ物を残してはいけない」と言われた経験があるだろう。それは食への感謝を育むうえで大切な教えだ。しかし、それが行き過ぎてしまうと、「残さず食べること」への強すぎる義務感が、楽しいはずの食事の時間を苦しいものに変えてしまうこともある。

 『外食がこわい 会食恐怖症だった私が笑顔で食べられるようになるまで』(なつめももこ/オーバーラップ)は、人と一緒に食事をすると強い不安や緊張に襲われ、うまく食事を摂れなくなってしまう“会食恐怖症”がテーマのコミックエッセイだ。ある日突然、人前で食事ができなくなった著者が、その症状と向き合った日々をこまやかに描いている。

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 著者の会食恐怖症の原因のひとつは、幼い頃に父親から「食べ物を残すな」と厳しく叱責されたトラウマだった。その記憶がふとしたきっかけで呼び起こされ、不安や恐怖に駆られる症状が現れてしまったのだ。それを克服するため、著者は「食べること」のみならず、自分自身の心や人生に向き合っていくことになる。

 本作は、単純に会食恐怖症のリアルを描き出すだけの漫画ではない。知らず知らずのうちに心を締めつけていた「こうしなければならない」という義務感を少しずつ解きほぐしていく物語でもある。中でも胸に残るのは、著者の「どうかひとりで抱え込まないで」という言葉だ。「外食が怖くても自分で何とかできる」「自分は大丈夫」と、ひとりで症状と闘ってきた著者が発するからこそ、このひと言の重みが強く響く。誰かを頼っていいし、助けを求めてもいいのだと、読者にそっと優しいエールをくれるのだ。

 食べることは、生きることに直結する。本作は“食べること”に向き合う漫画であると同時に“生きること”を巡る痛みと回復の物語だ。会食恐怖症をはじめとした不安障害で悩む人はもちろん、悩みや不安をひとりで抱え込みがちな人にとっても、本作はお守りのような1冊になるはずだ。

文=ネゴト / 桜小路いをり

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